大和肉鶏

生産者:雅 chick farm 中家 雅人さん
奈良県奈良市

日本酒の「地酒」は、灘と伏見の酒造地以外の土地で造られる酒を指す。これでは、大雑把すぎて酒を選ぶ指標にもならない。鶏肉の場合、「地鶏」と呼べるのは、法律に基づく日本農林規格(JAS)の基準をクリアーしたものだけである。基準が設定されていることで安全性が担保され、肉質や味も保証されるのだ。

ちなみに、「銘柄鶏」という、民間団体の日本食鳥協会が勧めるくくりの名もある。銘柄鶏と呼ぶためのガイドラインも設けられているが、日本農林規格(JAS)に比べれば条件はかなりゆるい。同協会は、現在、地鶏は全国に47種存在し、銘柄鶏を合わせたら計180余りのブランド鶏があるとアピールしている。消費者の多様な嗜好に応えるべく、業界あげて様々な鶏肉を供給できるよう努めているのがわかる。

とは言え、食鶏の国内出荷量をみれば一目瞭然。主にブロイラーの肉用若鶏が90%を占め、地鶏と銘柄鶏を足しても1%にしかならないのが現状だ。9年前、地鶏について勉強したく、滋賀県大津市にある「かしわの川中」を取材している(食材レポート04参照)が、当時と状況はあまり変わっていないように思える。

こうした環境のなか、あえて地鶏の飼育に挑戦し、質のよい鶏肉を育てる生産者がいると聞き、訪ねてみた。奈良市の隠れ里、柳生に近い山里で、奈良県が推奨している地鶏「大和肉鶏」に取り組む中家雅人さんだ。

中家さんは、東日本大震災後に脱サラを決意。奈良県の担い手育成事業による農業研修を受けた。研修後に養鶏場であらためて修業し直し、鶏肉を解体処理する技術なども取得し、その養鶏場を受け継ぐかたちで独立。2015年「雅 chick farm(みやびチックファーム)」を起ち上げ、大和肉鶏の飼育・食肉処理・販売を始めた。

「大和肉鶏は、県で種鶏を飼育管理し、ふ化場は1ヶ所限定。そこからヒナが私たち飼育する鶏肉生産者に届きます。飼料は組合指定の配合飼料など、生産から流通まで一貫した管理態勢ができている。でも、高齢者の多い生産農家を継ぐ人は減る一方だから、自分が継ごうと志願したのです」と中家さん。

地鶏は、規定された品種を入れた様々な組み合わせの交雑種から産まれるヒナを飼育するのだが、じつは、常にもとの種鶏から交配させて卵を産ませている。種鶏の飼育管理が大事になる理由はそこにある。大和肉鶏は、奈良県畜産技術センターで繁殖させ飼育する名古屋種の雄とニューハンプシャー種の雌から産まれた雌鶏を、さらにシャモの雄と交配させて“つくりだす”鶏なのだ。

「シャモの血が混ざっていますから、丈夫だけど性格は荒っぽい。ヒナが大きくなると、雄と雌を分けて育てるなど気を遣っています」と中家さん。それに「飼育して実感できましたが、大和肉鶏は脂肪の蓄積が少ないし、肉質のキメは細かくて、とにかく旨いのです。地鶏なのに、これまであまり知られていないのが不思議なくらい。それなら、さらに美味しくなるよう育てて、もっと広めたいと思いましたね」

雅 chick farmでは、よりよい大和肉鶏にするため、指定の配合飼料とは別に、乳酸菌や糸状菌からつくる独自の飼料を加えるなど工夫。給餌は手作業で行い、鶏舎内も頻繁に見回るなど細心の注意をはらう。規定の飼育期間を越えた120日齢飼育に、脂肪がよく付くように育ち具合に合わせて10日から20日ほど長めに育てているとも話してくれた。

「育てるばかりでなく、反応も聞きたくて、伝手を頼りに料理人さんにも持ち込んで使ってもらうようにしています」そういう積極的な働きかけもあり、中家さんの大和肉鶏は美味しいと評判になり、大和肉鶏の再評価へとつながっているようだ。

9年前、「かしわの川中」の川中高平さんと会い、これからは、地鶏は誰がどのように育てているか、生産者で選ぶようになるのではないかと思った。中家さんに話をうかがい、まさにその通りになっているなと、あらてめて思うのだった。

[取材日:2018年4月25日]

「雅 chick farm」は山里の自然に囲まれた高台にある。1棟60坪の鶏舎が6棟並んでいる。ここで、年間1万6000羽の大和肉鶏を育てる。
ヒナが地面の上で放し飼いにされた平飼い。床にはワラや木材チップ、天然ハーブのかすなどが敷いてあり、鶏糞の匂いも少ない。ウインドレスの鶏舎で、徹底した温度管理、衛生管理、防疫対策がとられている。
いかにも精悍な大和肉鶏の雄鶏。長期飼育によってここまで大きく育つ。適度な歯ごたえと赤身の濃い肉は、かつて奈良で生産されていた「かしわ」を思い起こさせると評判だ。

大和肉鶏

取材協力
奈良食べる通信
http://taberu.me/nara/index.html
*同ウェブサイトに中家雅人さんと大和肉鶏の記事があります。参照ください。
雅 chick farm (みやびチックファーム)
奈良県奈良市阪原町2434
電話番号:080-5327-8058
https://www.yamatonikudori.com
E-mail:miyabichickfarm@gmail.com
*ご注文などは直接ご連絡してください。
参照
大和肉鶏については以下のサイトを参照ください。
・大和肉鶏農業協同組合
http://naratiku.sakura.ne.jp/itiba/yamato/hyousi.htm
地鶏と銘柄鶏については以下のサイトを参照ください。
・一般社団法人日本食鶏協会の地鶏銘柄鶏ガイド
http://www.j-chicken.jp/anshin/index.html

[ 掲載日:2018年7月20日 ]