地鶏

国内で飼育される肉用鶏のうち、孵化して3ヶ月未満の肉用若鶏は、平成20年で6億羽が処理されている。鶏は産卵後21日でヒナになり、約6ヶ月で親鳥となるから、いかに若い状態で食用に供されているかがわかる。この肉用若鶏として飼料効率を高め育種改良された品種の代表がブロイラーだ。
対して、地鶏を含むその他肉用鶏の処理数は955万羽。こちらは今や少数派だが、日本農林規格(特定JAS法)によって「国産銘柄鶏」および「地鶏」が定義づけられており、より厳格に規定される方向になっている。しかし、近年は、ブロイラーの中でも通常とは異なった飼育による「銘柄鶏」が出てきているなど、少数派のその他肉用鶏はまさに玉石混交といった状況にある。
そこで、地鶏はどのように育てられているのかを取材した。訪ねたのは琵琶湖大橋の近くで活地鶏専門店「かしわの川中」を営む川中高平さん。養鶏から食肉処理、加工、販売まで一貫した直営態勢を築き、料理を供する「じどりや穏座(ONZA)」まで隣に開店している。現在、飼育しているのは、名古屋コーチン、近江しゃも、東京しゃも、プリモース(横斑プリマスロック)、淡海地鶏。
川中さんは「食用なのだから、味を追求するのは当然。うまい鶏をいかに育てるかに日々取り組んでいる。それに、消費者と接することでどんな鶏が求められているかを知るのも大事」と話す。早く太らせることが至上命題のブロイラーとは、そもそも飼育に対する考え方からちがうのだという。
地鶏は銘柄ごとの個性が売り。おのずと肉質や味のちがいが際立つように、品種ごとの習性に応じた方法で飼育される。例えば、軍鶏系は痩身で筋肉質。「脂肪が少なく、こりこりとした食感が特徴」。その味を引き出すためにも「鶏たちが鶏であることを忘れないように、地面を走りまわり、木の上で寝るとか、本来の姿に近い状態で育てないとね」と川中さん。そのため、鶏舎は日当りや通風に配慮し、土と接し、夜は安心して眠れるように止まり木が設けられていた。品種別、飼育期間別、それぞれに応じて分けられた鶏舎で飼育されている。
また、「鶏のうま味は、肉の繊維に脂肪がまわり熟成してできるものだから、品種によってベストな成長時期を見極めることが大事」と川中さん。例えば、名古屋コーチン、近江しゃもは6ヶ月、東京しゃもは7ヶ月かけて育てる。「おとなに成長すれば雌雄の差がはっきりしてくる。そうすると、どの部位にしても、オス、メス、それぞれの特性を生かした料理が考えられる」と話してくれた。同じ品種でも2種類のメニューができるのだ。
エサについては「人に良いと教えられてきたのは鶏にだって効果があるはず」と考える川中さんは「食事」という。じっくり育てる鶏には長期飼育用、早く大きくなる鶏には短期飼育用と大別。乳酸菌を増すにはオリゴ糖も必要、良質なタンパクを得るためにエビを丸ごと砕いて入れてもらうなど細かく指定しているから配合飼料でも特注(特別指定配合)。「体力がつくまでは最小限の投薬をしますが、その後は、無薬でのびのび育てています」。
こうした飼育の方法は、川中さんが20年近くをかけて試み、実証しながら高めてきたものだ。多くの料理人に支持されていることからも評価の高さがわかる。地鶏は誰がどのように飼育しているか、生産者で選ぶのもひとつの基準になるのではないだろうか。
[2009年8月25日取材]





地鶏
- 肉用若鶏の処理羽数は6億2,977万羽、処理重量は178万7,278t。その他の肉用鶏(地鶏等)の処理羽数は955万羽、処理重量は2万9,434t。(農水省「平成20年食鳥流通統計調査」より)
- 〈定義について〉
- 平成9年(社)日本食鳥協会が「国産銘柄鶏の定義」を示し、41種を指定している。平成11年には(社)日本農林規格協会が「農林規格(特定JAS規格)」で地鶏の定義を示し、38種を指定している。
- かしわの川中
- http://www.jidori.net/index.html
[ 掲載日:2009年9月9日 ]