大和の伝統野菜 下北春(しもきたはる)まな

寒い日が続くこの時期、畑の露地栽培には厳しい環境でも育つ菜っ葉や真菜の葉物野菜があるのはありがたい。実際に栄養補給の面でも重宝され、全国各地で地域ごとの気候や土地にあった様々な菜っ葉や真菜が伝承されている。関西には、京都の「畑菜(はたけな)」、大阪の「高山真菜(たかやままな)(*食材レポート52)」、奈良の「大和まな」などがある。こうした菜っ葉や真菜類の多くは、収穫後に漬け物にされるため、一様に漬け菜とも呼ばれている。農水省のHPにも漬け菜が使われていたから、通用しているのだろう。
奈良で食用ホオズキ(道安宝珠喜)を栽培する出垣滋さん(*食材レポート72)に、「奈良には大和まなよりレアな真菜があります。作られているのは吉野です。僕も一度訪ねてみたいと思っていたので一緒に行きませんか」と誘われた。
車で数時間かけて着いたのは、三重や和歌山との県境にある奈良県吉野郡下北山村。道中から山奥へ来たなと思わせる山間にも開けた地があって、ひっそりとした佇まいの集落が現れる。下北山村はそういう雰囲気をもつ村だ。
村役場で生産者の西岡道則さんに話をうかがった。話題の真菜は、この地で古くから自家栽培され地元で消費されていたのを、20数年ほど前に商工会が春まな漬けで販路を広げようとしたことから始まるという。「真菜を生のまま流通させるのはコスト的に難しいので、当初は漬け物の加工に力を入れていました。それが、平成20年に大和の伝統野菜として認められ、いろいろと一気に動き出したのです」
今では、「下北春まな」の名に統一され、特産物にしようと多様な取り組みが行われている。その中心になる団体は3つ。早くから漬け物を手がけている下北山村商工会の下北山村振興事業協同組合、まな粉をはじめ多様な加工食品の開発を担う下北山村特産物加工組合、それにハウスでの栽培方法を探るNPO法人サポートきなり、という棲み分けがとられている。現在、下北春まなを栽培する農家は約30軒になり、全体の出荷ベースで約5tの収穫をあげるまでになった。他に料理メニューや加工食品の開発などに協力してもらえる“つながり”も広がりつつある。
西岡さんに畑を案内してもらった。「葉が丸くて、歯肉が厚いでしょう。ここらは1日の寒暖差が大きく、霜が覆う厳しいなかでよく育ってくれます。強いのに、葉は柔らかい。うま味が閉じ込められているから、風味は濃いめですよ」その大振りの葉を浅漬けにして、御飯の握りを包んだのが“めはり寿司”の原型といわれる。
ハウスでは、NPO法人サポートきなりの工藤延春さんに話をうかがった。「種は自家採種。毎年11月に種を蒔き、越年させて2月に収穫します。葉が大きくなる頃は冬なので、害虫はいませんから農薬いらず。今は、堆肥を工夫したり、有機農法で品質も数量も安定して収穫できるようにいろいろ試しているところです」同じくハウスで食用ホオズキを育てる出垣さんは、熱心に質問していた。
西岡さんは「これまでは村内需要ですから、不作とか、いい漬け物ができなかったとかで済んでいた話も、取引先が広がればそういう訳にいきません。今は村全体で下北春まなを商品としてみる意識が強くなっています」と話す。流通方法も進化し生のまま出荷することも可能になっている。西岡さん自身も少しでも村や農業に関心を持ってもらうために、農業体験、山里体験をしてもらおうと、農家民宿を始めた。さらなる動きに余念がないようだ。
村役場では、地域振興の一環として、様々なかたちで支援にあたっている話をうかがった。生産に加工や流通販売まで関わる6次産業化の政策を超えて、下北春まなは今や町起こしに欠かせない存在になっているのだ。市場から遠い山間の地で、ひとつの野菜に伝承されてきたからこそ宿る秘められた潜在力があるのを感じた。
[取材日:2018年2月7日]




下北春(しもきたはる)まな
- 「下北春まな」に関する問い合わせは
- 奈良県下北山村役場
産業建設課
電話番号:07468-6-0016
http://www.vill.shimokitayama.nara.jp
*ご注文などは直接ご連絡してください。
[ 掲載日:2018年2月28日 ]