日本料理界の重鎮たち

片山 心太郎さん
「日本料理 楽心」店主

大阪・福島区の路地に端正な店構えをみせる「日本料理 楽心」。国内外の美食家から愛されている一軒だ。店主・片山 心太郎さんは、日本料理の伝統を重んじながら、枠にとらわれない想像力をもって、妙味を楽しませてくれる。

片山さんには、人生の「師」と思える人物が二人いる。
心斎橋「懐石料理 桝田」店主・桝田 兆史さん。そして片山さんが「アニキ」と慕う、豊中「とよなか桜会」店主・満田 健児さんだ。

「師匠・枡田との出会いは、辻調理師専門学校後の先生からの紹介でした」。
卒業後、修業に入った大阪の割烹店で、料理長を務めていたのが枡田氏だった。
「あの頃から今も変わらないこと……。それは、“人”との出会いありきで、僕の仕事は成り立っています」と語る片山さんは、3年半経験を積んだ。「店が閉店を余儀なくされ、枡田のオヤジは独立をされることになりました。僕は、“ひとり旅に出させてください”と世界一周バックパッカーで食べ歩きの旅へ」。
イギリス、フランス、イタリア、そして母が滞在していたニューヨーク…と4ヶ月の放浪旅。「枡田のオヤジとは旅に出る前からコンタクトを取らせていただいていました。忘れもしない、あれはボローニャに滞在していたとき。“早く日本へ帰ってこい”と連絡をいただいたのです。嬉しかったですよ」。
帰国日を伝えると、枡田氏は新大阪駅まで迎えにきてくれたという。そして開店して間もない「懐石料理 桝田」へ直行。「カウターを保護する布をめくなり、師匠はこう言ってくださったんです。“明日からここで働いてくれるか?”と」。それは片山さんにとってある意味、ドラフト会議か、はたまたプロポーズのような喜びだったのだろう。

着々とステップアップをしてきたを片山さんは、その後、「枡田一門」の兄弟子である「とよなか桜会」の暖簾をくぐることになる。「アニキ・満田 健児さんにも刺激を受けっぱなしでした。彼は職人気質であり、かつおいしさを科学的な視点で捉えることができる料理人。しかも、ソムリエの資格も持つというマルチプレイヤーですから」。
片山さんは、8年修業を積んだ中で、うち5年間は、「とよなか桜会 支店(閉店)」の料理長を任されるまでに。

「僕にとって、二人は日本料理界の重鎮です」。二人の師匠から学んだことは数多ある。中でも「自分が何者なのかを冷静に把握できるかどうか。そして良いと信じたことは実行に移し、自分の強みを生かす」という人としての根幹だ。
「師匠たちの強みを知っているからこそ、独立するにあたり“自分とは何者なのか?”を問い正しながら、僕らしさを突き詰めることができたのかもしれません」

独立して9年の歳月が流れた。変わらないことといえば、カウンター席から臨む中庭の、水墨画を連想させる幻想的な景色だけだろう。
コロナ禍前には、海外のシェフのコラボレーションも頻繁に行ってきた。また、海外から研修生の受け入れにも積極的で、「日本料理を世界へ向けて発信したい」と意気込む。また、この時世だからこそ、新たな取り組みも。2021年春には、自社通販サイト「GOCHISO SAMURAI」を立ち上げた(https://www.gochiso-samurai.com/ )。山海の恵みをお重に詰めた「牛しらす飯」など、「お家にいながらにして、プロの味」を楽しませてくれる。
「僕自身が一歩一歩進みゆく中で、成功していくことこそ、師匠への恩返しだと思っています。常にオリジナリティを持ち続けて、努力するのみ」と片山さんは締めくくってくれた。

[2021年8月5日取材]文/船井香緒里

四季の移ろいを楽しませてくれるカウンター席。中庭は、山水画のような風情漂う。
夜コース2万5000円(全10品)のなかの一品は、旧暦6月、水無月の「氷の節句」にちなんだ前菜。
「GOCHISO SAMURAI」で販売牛の「牛しらす飯」(1箱2人前)4500円。滋賀県産の無農薬コシヒカリの上に、淡路牛の旨煮、淡路のしらす山椒炊きを盛り付けて。
「日本料理 楽心」
住所 大阪市福島区福島1-6-14
TEL. 06-6451-2323(要予約)
営業時間 通常は11:30〜13:30LO、17:30〜21:00LO
定休日 不定休
料金 昼コース6600円、夜コース2万5000円〜(サービス料10%別)

[ 掲載日:2021年8月20日 ]