「考え方」と取り組む「姿勢」に影響を受けた両親と、2人の料理人

東 浩司さん
「Chi-Fu」店主

昭和22年、西天満にて創業。その後、東京・新橋に移転した、ビーフンとバーツァン(中華ちまき)の店「ビーフン東」が、かつて店があった場所にて再開したのは2011年9月のこと。ビルの地階では従前の「ビーフン東」を営み、ディナータイムは「Az(アズー)」という名で、中国料理はもちろんビストロ感覚のメニューを提供。一階にある「Chi-fu」では、「中国伝統の味をいかにブラッシュアップさせるか」をテーマに、ワインに合わせたコース料理を供している。祖父、そして父から受け継いだ店を、時代の流れを加味しながら展開する三代目店主が、東浩司さんだ。

「刺激を受けた人は、僕自身の食文化を形成してくれた両親です」。そう話す東さんは、幼稚園の頃から自宅のキッチンで、お母様の手伝いをしていたというから驚きである。「小学校1年の頃でしたか。僕が“お肉の食べ比べをしたい”と母にせがみました。すると当時、流行っていた前沢牛ほか銘柄牛の食べ比べを、しゃぶしゃぶで食べさせてくれました」。調理師免許を保持していたお母様は、サーモンのテリーヌや、エスカルゴバターを仕込んだり、元帝国ホテル顧問の故・村上信夫シェフの料理本を見ながらデミグラスソースを仕込み、3日かけて牛タンシチューを作るなど、料理を作ることも食べ手に喜んでもらうこともとにかく好き。「“料理は手間をかけるもの”ということを、幼少時代から叩き込まれましたね」。お父様もしかり。休日には家族に料理を振る舞い、「家族でテーブルを囲むでしょう。すると父は、カセットコンロで鍋に油を熱し、あらかじめ仕込んでおいた串カツや天ぷらなどを目の前で揚げてくれました。熱いものは熱いうちに食べる、という最適な温度を子どもながらに感じました」。そんな東家ならではの食育が、東さん自身の繊細な味覚と審美眼を形成したに違いない。

高校を卒業した東さんは、弁護士を夢見て大学を受験するも挫折。浪人生活を数年続けた。「当時、弁護士をやってから親父の後を継いでも遅くはないと考えてましたが、それって料理人である父に大変失礼だと気付き」、赤坂の中国料理『維新號』グループに入社する。「僕、その頃フラフラしていましたから(笑)、3年間は頑張ろう」と心に決め修業を積み、気付けば6年が過ぎた。「その間、痛感したのは、中国料理の料理人を志す人がひじょうに少ないということでした。調理師学校を卒業するでしょう。料理人を志す人気No.1はフレンチ、次にイタリアン、そして和食、次が中国料理です。自分がどれだけ頑張ったとしても、スタッフが育たなければ、企業と同じで先はないでしょう」。では、中国料理人になる人間をひとりでも増やすには? そのために自分は何ができる? 『維新號』での修業を終え、父が経営する新橋店で6年、料理長を務めた東さんは、「中国料理の基礎をしっかりと学んだ上で、人とは違う革新的なことをしよう。そうすると、時代の流れに沿ったスタイルに興味を持つ料理人が育つのではないか」。そう心に決め、現店のオープンに至ったのだ。

いま、料理人・東浩司として刺激を受け、憧れの存在でもある料理人が2人いる。ひとりは六本木『龍吟』の山本征二さんだ。曰く、「山本さんは発想も技術も凄い、という言葉をはるかに超えています」。『龍吟』へは年に3〜4回、食事に訪れるという東さん。「例えば昨年、頂いたヒラメの造り。歯を入れると、イカってるのでもなく、かといって熟成でもない。でも数回咀嚼したときに、ブチンッと弾けるように切れるのです。あの質感と食感は、初めての経験でした」。山本さんに尋ねると、「寝かせ方」と「切り方」、さらには「切る際の温度」、全ての好条件が揃わないと実現しないという回答。また、「焼き物や椀物も、訪れるたびに、明らかに火入れや食感を変えておられるのが分かる」とも。「日本料理に敬意を払ったうえで、本質に常に疑問を投げかけ、本質に向かって挑戦をし続けておられる。物事の突き詰め方はもちろん、お客さんへの向き合い方もそう、何もかも次元が違う」と東さんは目を輝かせる。
ふたり目は「菊乃井」店主・村田吉弘さんだ。「伝統を守りつつ、常に新しいことにチャレンジされている。その姿勢や考え方に感銘を受けています。僕が刺激を受けている料理人の皆さんが創造する料理には、ひと皿ひと皿に強いメッセージ性を感じるのです」という。

東シェフは、自店である『Chi-Fu』にて、中国料理の伝統や技術を土台にしながらも、枠にとらわれない斬新な発想を柔軟に取り入れている。例えば、「山河の佛跳墙」という名の皿。フカヒレや燕の巣をはじめ海鮮の乾物からだしをとる贅沢なスープ・佛跳墙を、山や河の食材に置き換えた。干茸、山芋、金華ハム、スッポンからだしを取り、牛アキレスのゼラチン質を重ねる。複雑なうま味が凝縮したスープに、干し梅を加えて蒸すことで、やわらかな酸味が加わり、添えた稚鮎のフリットの苦味とともに締まりのある味わいに。「中国では昔から、牛アキレスを料理に用いたり、干し梅を肉とともに煮込む食文化があります。それを僕なりに解釈し、山河の食材と組み合わせました」。中国料理を、次の世代の料理人に受け継ぐために、日々研鑽を重ねている。

[2014年6月27日取材]

白いテーブルクロスが敷かれた『Chi-Fu』の店内。「ワインと中国料理」をテーマにとしたコースのみの現代中国料理を愉しめる。同業者から「関西一」とも称されるワインリストも必見。
「山河の佛跳墙」。12,600円のディナーコースより。有田「カマチ陶器」の透明感ある赤の皿とのコントラストも美しい。
「Chi-Fu」
住所 大阪府大阪市北区西天満4-4-8 1F
TEL. 06-6940-0317
営業時間 ランチコース 5,500円〜
11:30~13:30 L.O.(月曜は休み)
ディナーコース 12,600円〜
17:30~20:30 L.O.
定休日 日曜、祝日不定休
公式サイト http://chi-fu.jp/
「ビーフン東/Az」
住所 大阪府大阪市北区西天満4-4-8 B1
TEL. 06-6940-0617
営業時間 ランチタイム/11:30〜13:30 L.O.(月曜は休み)
ディナータイム/17:30〜22:00 L.O.
定休日 日曜、祝日不定休
公式サイト http://www.az-bifun.com/

[ 掲載日:2014年7月7日 ]