つながりを広げてくれた3人のキーパーソン

木田 武史さん
讃岐手打ち「釜たけうどん」主人

「関西讃岐うどん」ブーム、そして定着化の立役者として知られる木田武史さん。2003年に開店した「釜たけうどん」には、木田さんの創意溢れるうどんを楽しむべく、遠方客はもちろん、韓国や中国など外国からも客人が訪れる。

「今の僕があるのは、やはりキーパーソンとの出会い、そしてお世話になった方たちのおかげです」。木田さんは、もともと家電業界で23年勤めていた。なぜうどん業界へ?との問いに、「サラリーマンの頃から、うどんの食べ歩きは好きでした。90年後半でしたか、香川で食べたイリコダシの効いた冷たいうどん、いわゆる『ぶっかけ』に衝撃を受けたんです。当時、ぶっかけを出す関西のうどん屋は数軒しかなかった。じゃぁ自分で作って食べたいなと。そして、うどん屋開業を前提とした食べ歩きに拍車をかけました」。その情報を、自身のホームページ「大阪讃岐うどん情報」で公開し始めた。

2000年当時、関西のうどん屋を中心に50〜60軒を紹介し、関西で最も情報量の多いうどんの情報サイトに。「ホームページでの情報公開のメリットは、発信はもちろん、逆にユーザーから新たなうどん店の情報をいただけたりもします。そんな出会いのなかで知り合ったのが、沖山欣也さんです」。

沖山欣也さんは、通称・PAPUA「関西ラ-メンめぐり」管理人であり、日本コナモン協会・関西麺類研究所所長を務める、関西ラーメン界の重鎮。「沖山さんは関西におけるラーメン界の、横のつながりをとても大切にされている方でした。ラーメン屋の店主やラーメンを愛する方たちの集まり『関西望麺会』に初めて呼んでいただいたときは、すごく刺激を受けましたね。店の垣根を超えた交流がそこにはあったから。また、沖山さんが管理しているホームページは、ラーメン界トップクラスのアクセス数。この頃ですね、うどんで何か仕掛けたい、うどん屋同士の関わりをもちたいと、意識しはじめたのは」と木田さんはいう。

技術面に関しても、木田さんならではの持論がある。「うどん屋をやりたいときは、“どんなうどんを作りたいか”が大事だと思うんです。それは修業も同じ。流行っている店で働きたいでは全く意味がない。だって、師匠は越せないですから(笑)」。だから木田さんには師匠がいない。しかし「心の師匠」と呼ぶ男が香川にいる。高松市にある『手打うどん 三徳』の店主・岡田栄一さんだ。「三徳さんのうどんは、私の理想でした。ずばり、うどんは食感。いかに噛みごたえ、飲みごたえがあるかに尽きます」。岡田さんとのこんなエピソードも。「釜たけうどん開業前でしたね。三徳さんの閉店時間である16時にあわせて、大阪から車を走らせるんです。そして岡田さんからいろんなお話を伺うのがすごく好きで」。気付けば夜の21時で、大阪へとんぼ返り…なんて日々が続く。「いろんなお言葉をいただきましたね。例えば、“うどんは手ざわりが大事。感触がよくなければ、喉越しもよくない”。当たり前のことですが、それが大事。今も実践しています」。かくして2003年、「釜たけうどん」を開くこととなる。

「そのオープン年でしたね。私の人生を変える転機が『ながほり』の中村重男さんと出会いでした」と木田さん。「お客さまとして店にお越しいただいたのがきっかけで、関西の有名料理人の集まりや生産者の見学に誘っていただけるように」。そこから木田さんと料理人との交流がはじまる。「おかげさまで料理人さんに来店いただくようになったのです」。2005年からは、中村さんが発起人である「高津宮とんど祭(自称)日本一の屋台村」に出店。「それまで、うどん屋と料理人との接点はほとんどなかったといっても過言ではないです。しかし、中村さんとの出会いがきっかけで、志の高い飲食業界の方たちと交流させていただけることに。また、自分で使う食材が誰がどんな環境で作ってるかを知る事の大切さも教えてくださったのです」。

料理人との風通しのよい情報交換が実現したのも、木田さん自身がオープンマインドであるからだろう。たとえば、木田さんが発案者である「ちく天ぶっかけ」。ダシは関西人の舌に合うよう、イリコだけでなく鯖やウルメ、カツオを使いやや甘めに。半熟玉子やちくわの天ぷらをのせて出すアイデアは、香川のうどん店にはなかった。これを木田さんは、自店の看板メニュ−だけでなく「ちく天ぶっかけというメニュ−をどんどん使って」と、他のうどん屋での提供も自由としたのだ。また、2012年に大ブレークした「キムラ君はじめました」も木田さんが考案。「キムラ君」は、キムチとラー油を使ったメニューの総称として親しまれるようになり、うどん屋だけに留まらず、居酒屋、バル、焼肉店などあらゆる飲食店でオリジナルメニューが展開されている。

キムラ君の次は、“ガリ”を仕掛けはじめています」と木田さん。「ガリといえば語源はショウガ全般の事」というのが、ネーミングの由来。「関西人は出たがり、目立ちたがり、とガリをかけた言葉遊びを楽しむ事ができます。そこで細切りにした生ショウガを天ぷらにし、他食材と組み合わせたうどんメニューの面白いネーミングで楽しもうというのが今度の主旨です」と木田さん。たとえば「とんがり君」とは、豚バラ肉とショウガの天ぷらを組み合わせた、温かいおうどん。また、きつねうどんにショウガの天ぷらを添えると「きつねがり」となる。「ガリ・メニュ−も、いろんな飲食店で広まると嬉しいですね」と木田さんは話してくれた。

[2012年12月20日取材]

「タケちゃん」と、料理人ほかあらゆる人から親しまれている木田さん。今でも新規うどん店の食べ歩きを怠らない、フットワークの軽さ。毎年1月、関西はもちろん全国のうどん店が一同に集う「関西うどん新麺会」の幹事でもある。
「きつねがり」。揚げはやや甘めに炊くことで、ダシは優しい甘み。そこに、ショウガの天ぷらのヒリリとした辛みが、見事な相性をみせる。「温」メニュ−にも関わらず、麺には強いコシと弾力。みるみるうちに身体が温まり、汗ばむこと必至。
「ガリ」メニュ−は、この2品。「現在、ガリメニュ−を試作中。まだまだ増える予定です」と木田さん。
讃岐手打ち「釜たけうどん」
住所 大阪市中央区難波千日前4-20
TEL. 06-6645-1330
営業時間 11:00〜16:00(麺売り切れ次第、終了)
定休日 月曜
公式サイト http://kamatakeudon.kt.fc2.com/

[ 掲載日:2012年12月27日 ]