表現力

仲嶺 淳一さん 『La Kanro』オーナーシェフ

1975年、大阪出身。調理師専門学校卒業後、大阪の飲食店からキャリアをスタート。渡仏し、パリのミシュラン三つ星レストラン『アストランス』で修業。2013年に大阪・東天満で『La Kanro(ラカンロ)』をオープン。

関西食文化研究会・コアメンバー 門上武司の視点
『La Kanro(ラカンロ)』仲嶺シェフは、自ら学んだフランス料理技術を正確に継承しながら、他国の型を貪欲に学ぶ料理人。研鑽を重ね、“仲嶺料理”ともいうべき表現を確立。料理だけでなく、その表現美学について学ぶことが多い。

存在意義(差別化)を考える

独立して13年目。仲嶺シェフのユニーク性を知る料理人は少なくない。エディブルフラワーをいち早く取り入れ、草花を摘むような食体験に挑戦。色彩と料理を融合させたアーティスティックな表現方法に評価を得た。
また移転先の現店舗では、北欧の家具が配される中、通路から個室、カウンターに至るまで左官職人・久住有生氏による内装で統一。各部屋には草木を配置し、静謐な空気感にも生命力を宿すこだわり。そんな店づくりにおいて、シェフが感じてほしいのは“安心感”だという。

「大阪市内、しかもビルの中なので、自然豊かな土地でもない。ましてや安くてうまい大衆的な料理でもない。だからこそ大阪で飲食店をする存在意義を見つけないといけない」と仲嶺シェフは言う。
“安心感”を表現するためには、自然からのインスピレーション、多ジャンル料理からの創造性、中庭のある店や料亭など、空間までもが店舗づくりに影響を与えているという。
そして、『ムガリッツ』のアンドーニ・ルイス・アドゥリス氏との会話「おいしいものはいつでも作れるよ。大事なことはお客を楽しませること! だからこそ体験が大切だ」と。その言葉を胸に、常に思考しているという。

料理以外の仕事が新しさを生む

感性を磨く上で、シェフはどのようなインプットをしているのか? 料理書を読みあさるほか、関西食文化研究会の定例イベントにもよく参加している。
「先日、立ち食いうどん屋さんで食事をした時に、そこのネギがとてもおいしかったんです」と嬉しそうに話す。居酒屋ではユニークなメニューが出てくるとテンションが上がり、人気飲食店のYouTube動画で心を動かされることもある。

そして、ジャンル・価格帯に関係なく、それら飲食店とのコラボレーションを行うなど活動的だ。「実際の現場での体験や感覚的な学びには本質的な違いがあります」と話すように、知識を得るだけでなく、体験したことをアウトプットすることを大切にしているという。そして「料理以外での仕事が新しさを生む原動力」になっているとも話す。

“好き”を大切に、五感を使って仕事をする

「13年前は“無いものを”追求し、もがいていました」とシェフは振り返る。しかし、“おいしい”の本質に立ち返り、薫陶を受けた『アストランス』パスカル・バルボ氏の「食材の声を聞け」という教えが今になって腑に落ちているという。

定番料理の重要性を感じ、近年「キャビアと卵黄」の一皿がシグネチャーに。そして、フィンガーフードと花々を組み合わせた表現は“仲嶺料理”としてユニーク性を誇る。
「特にレストランは総合エンターテイナー的でなくてはいけない」——まさにアンドーニ氏の言葉を体現している。

表現においては、視覚、嗅覚、味覚、触覚、聴覚といった五感を駆使することの重要性と、独自性の追求が大切だと考えるシェフの答えが「草木」が醸す雰囲気だ。そしてもう一つ大切にしているのが“自分の好き”。

インテリアが好きで、花木が好きというシェフ。「花屋のようなレストランってとても素敵ですよね」と話し、その感覚は写真家・映画監督である蜷川実花氏のクリエイションとも似ているとも。
「一見強烈に見える表現の中にある面白さや重なり合いについて、表現の多様性があって好きです」と、その感覚を大切にするだけでなく、アウトプット(表現)にこだわっているのが仲嶺流だ。

シェフの持続可能性(サステナビリティ)とは

移転してスタッフを増強したことで、表現できることが増えたと話すシェフ。現在の店舗のチーム体制は約3.5人。そしてシェフ自らがサービスし、お客様とのコミュニケーションを密にすることの大切さを実感しているという。

「だからこそ、スタッフが快適に働ける環境を整えることが大切です」とも。厳しさと甘さのバランスに逡巡しながらも、“好き”の感覚をスタッフと共有することで、さらなる未知の表現力を信じている。
そんな“ワクワク感”が、シェフから溢れ出ていた。

唯一無二の美味しさと体験を提供する場所として「特別な甘露」と名付けて店名。
「青」を基調とした色彩設計。店の個性と非日常性を際立たせる、シェフのこだわり表現。
静謐な空間演出は、反響を抑える吸音性の高い自然素材を用いた左官仕事がいきる。
色彩で魅せる仲嶺淳一の料理。その表現力は、恩師である『アストランス』のパスカル・バルボ氏から受け継いだ“自然との共生”という哲学を礎に持ちながらも、さらに独自の感性で深化し、独創的な世界観として開花した。
『La Kanro』
住所 大阪府大阪市北区天神西町3-9 NUI南森町南側
web https://lakanro.jp/

[ 掲載日:2025年6月30日 ]