外に目を向けさせてくれた初めての研修旅行

京都・祇園で、京料理のようにあっさりとした中華で人気を集める広東御料理「竹香」が、近くの古門前通花見小路にテイクアウト専門の支店を開いて11年。その店の料理長、永田真司さんは「竹香」本店でのアルバイトから始め、他店での修業を積んで中華の料理人になった経歴をもつ。
大学は工学部を卒業し、学生時代にはマンドリン独奏のコンクールで日本一にもなった。けれど、「竹香」の娘婿となり料理の道を選んだのだった。「自分のなかでは、なんであれ、器用にできる自信みたいなのがあったんでしょうね」と永田さん。「無自覚なままで来ていたら、とんでもないことになっていたと今は振り返られる」と話す。だからこそ、独り勝手な自分を変えるターニングポイントが忘れられない。
それは、「竹香」支店を開いて2年目くらいのころ。神戸で中国食材や酒類の卸販売を専門にする栄康(株)の山下正義さんから研修旅行に誘われた。「山下さんは、他の料理人と交わらず内にこもった私を見ていて、外に目を向けさすいい機会だと思ってくれたようです」。上海を中心に紹興酒や食材の製造工場を見学してまわるツアーに強引に連れ出されたという。
「まわりを見てびっくりですよ」と永田さん。その研修旅行には、「第一楼」をはじめ関西で名だたる中華料理店の料理長クラスが参加していた。「皆が自分よりも年上で、キャリアも十分。これでは知ったかぶりもできないし、何もわかっていないのを曝け出すしかないと思いました」。
そうした態度の若造に対し「先輩がたは親身になっていろんなことを教えてくれ、勉強になりました」と永田さん。正直な気持ちで人と接すれば、愚問を投げかけてもきちんと答えてもらえる。結果的には永田さんにとって実りの多い旅となった。帰国後も声をかけてもらい、様々な会合にも誘われたり、社交的な行動に弾みがついた。まさに、転機となった。それからは「まわりを見ようという意識になり、都合をつけて外へ出るようになりました」という。積極的になるほど、挑戦意欲が高まる。他の料理人への関心も湧いてくるし、自分が新しく料理しようとするのにも客観的な見方ができるようになっていった。
「そうなると、料理がさらにおもしろくなるんです」。例えば、京料理の第一人者、「菊乃井」の村田吉弘さんが著した書に『京料理から〜こんなん旨いこんなん好きや』がある。「この本は平成元年(1989年)の発行。村田さんが38歳のときで、本書を手にとる自分とほぼ同じ歳なんです。それだけに、当時の村田さんが老舗を継いでいかにすべきかと苦悩しておられる様子が感じられる。行間に滲んでいるんです」といった読み方もできる。今も、座右の書となり「自分は果たしてそこまで考えているだろうかと、常に反省させられる」という。
外に出ていろんな人と会い、話し、感じる。それらは刺激になって、自身でも高めようとする。「それが創造意欲なんだと思う」と永田さん。「料理人は料理を通して社会との関係を構築していくのだと、まさに実感できる年齢になって、あのターニングポイントのありがたみもわかる」。
40歳を目前にして、今年は「竹香」支店にテーブル席も設け、イートインも始めた。店で「竹香」本店のメニューに加える新しい料理も作る。「あくまで竹香のスタイルを崩さずに、新しいことに挑戦するのはおもしろい」。これから永田さんの作る京風広東料理がどんな展開を見せるのか、大いに楽しみである。
[2009年12月7日取材]



住所 | 京都市東山区古門前通花見小路東入ル |
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TEL. | 075-532-3211 |
住所 | 京都市東山区新橋通大和大路東入ル |
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TEL. | 075-561-1209 |

[ 掲載日:2009年12月17日 ]