良い土をつくり、強い根をつくり、旨み豊かな野菜をつくる。
「酵素栽培の旬野菜」
農業女子PGメンバー・野菜ソムリエ 小安 未貢さん

農業が盛んな大阪南部
大阪と聞けば高層ビルや繁華街のイメージが強いかもしれないが、郊外へと足を運べば意外なほど豊かな自然が広がっている。特に南河内は、府内でもとりわけ農業が盛んな地域だ。魅力的な生産者の多さに目移りするが、今回注目したのは「イージーファーム」。農薬・化学肥料を使用せず、微生物の力で栄養豊かな野菜をつくる「酵素栽培」が特徴の生産者だ。
微生物を活かす酵素栽培
「酵素栽培は、畑に良い微生物を増やし、土中に残った雑草や枯れ葉、古い成分を分解させて土壌そのものの代謝を促す農法です。善玉菌の増加によって悪玉菌を抑えられるため、健全な圃場を維持することができます。優れた環境の中、与えた有機質肥料も微生物によって良質な養分に分解され、栄養豊かなおいしい野菜に育つのです」と、山口さんはメリットを教えてくれた。土中に悪い菌が少なくなれば植物の免疫力が高くなり、農薬を散布しなくても病気や害虫に強くなるという。
肥料は有機成分を独自配合
野菜の味を良くするために、肥料も工夫が光る。イージーファームでは、油カス、鶏糞、魚カス、蟹ガラなど天然の有機質肥料を単体で仕入れ、独自にブレンドして使う。さらに土壌検査も内部で行い、残留肥料をチェック。次に苗を植える時、何をどれだけ与えるべきか的確に把握する。土壌や季節、品目に合わせて最適な成分比率を試行錯誤し、一番おいしくなる配合を追求しているのだ。最初から構成要素が決められている化学肥料には、とても真似できない細やかさである。
また、化学肥料は水で一度に溶けるため栄養過多になりやすく、根が育ちにくい。一方で、微生物が成分をゆっくり分解する有機質肥料なら、吸収できるようになるまで時間がかかる。すると根は、栄養を求めて広く深く張り巡らされ、植物の細胞も強固になるという。こだわりはまだある。旨みをはじめ野菜本来の実力を最大限に引き出すには、原種が誕生した環境に近い条件で育てることだと山口さん。水分の少ないアンデス山脈の岩場で生まれたトマトなら、できるだけ水は少なめに。亜熱帯生まれの茄子なら高温多湿に。生態を意識した圃場づくりも、高品質を実現するベースだ。
なるほど。同じ品目でも、育て方によって全く違うものができると言っても過言ではない。
外観より、量より、味と栄養
味よし、栄養よし、そして安心な酵素栽培だが、成長速度や見た目の美しさでは及ばない点もあるとか。病害虫に強いといっても、農薬を使わないのだから虫の被害もゼロではない。
「野菜に何を求めるかですね。収穫量なのか、見た目の良さなのか、味なのか。全部叶えるのは不可能に近いでしょう。小売店に並ぶ野菜の値段は、味を基準にしていません。見た目のキレイなものを、多く揃える方が評価されます」。
山口さんは、こうした風潮に違和感を覚える。
「私たちは流通を意識して量や外観を重視するのではなく、味や栄養がすべてです。販売先も、こうした想いを共有していただけるレストランを独自に開拓しています」。
その言葉通り、野菜の栄養分析も行う。栽培環境や肥料の種類によって、どれだけ品質が変わるのかを科学的に数値として把握するためだ。よりおいしく、栄養たっぷりに育てるには、どのような改善が必要なのか。より優れた栽培技術を研究し、次の世代に残していくことも生産者の大事な責任だと考え、山口さんは持続可能な農業についても模索する。
野菜にもメインと並ぶこだわりを
一風変わった取り組みでは、農林水産省が主催する農業女子プロジェクトにも参加。栽培はもちろん、新品種のPRや農業用機器のデータ採取に協力するほか、農作業時の着心地について衣類メーカーのモニターを引き受けることもあるとか。女性ならではの感性で、収穫物を使った料理を作ったり、クックパッドにレシピを発表したり幅広く農業の魅力を伝える。
野菜はどうしても脇役的な印象が強い。しかし、メインとなる肉や魚と同じように、こだわって選びたくなる野菜もある。イージーファームを訪れて、そんなことに改めて気づかされた。
[取材日:2021年4月14日]

レストランは、栽培方法や出荷方法について納得していただいたお店のみ販売。指定された価格に応じて、旬の野菜を詰め合わせて出荷するアソートパックが基本。現在の出荷先は北区・西区を中心に、グランフロント大阪内のレストランにもファンは広がる。



コロナで低迷した飲食店への売り上げをカバーし、より販売経路を広げるために2020年10月末に直営店をオープン。将来は、飲食店専門の拠点を大阪市内につくることを大きな目標に挙げる。

生野菜のほかにも、野菜パウダーや乾燥野菜といった加工品も製造する。原材料が野菜100%のパウダーは、パスタやパンをはじめ、離乳食の食材としても注目を集める。今回のコロナ禍のように、レストランへの販売がストップした際も余剰分をパウダーにすれば廃棄することもない。また、巣ごもり需要を受けてインターネットでの加工品の販売は、昨年の3倍にまで伸びた。

土壌改良に使うのは、農水省が「有機JAS適合資材」として認証した土壌改良剤「自然の恵み」。有用な働きをする14種類の善玉微生物を配合する。

各地で開催されるマルシェでも、新鮮な美味を手にすることができる。これをきっかけに、偶然手にした料理人が気に入り、本格的なお付き合いがはじまることもあるというから、品質の高さが伺える。
良い土をつくり、強い根をつくり、旨み豊かな野菜をつくる。
「酵素栽培の旬野菜」
- 取材協力
- 栄和産業株式会社 アグリ事業部 イージーファーム
- 〒585-0014 大阪府南河内郡河南町白木1403-4
- tel:0721-69-5779 fax:0721-69-5758
- mail:agri@eiwasangyou.com
- https://eg-farm.jp
- 事業内容:野菜の栽培および、加工品の販売。
[ 掲載日:2021年5月20日 ]