梅酒の漬け梅が育む、陶酔の美味。プロを酔わせる、とろける肉質。
「大阪ウメビーフ」

依然として続くコロナショックの中、関西の優れた生産者はどのように危機を乗り切っているのだろう。今回は、堺市で「大阪ウメビーフ」を手掛ける原野牧場に近況を伺った。
大阪ウメビーフといえば、G20大阪サミットのレセプションディナーに食材を提供した実績もあるトップブランド。販売先にも、一流といわれるレストランやホテルがずらりと並ぶ。
さて、このウメビーフ。その個性的な名の通り、肉牛に「梅酒の使用済み漬け梅」を食べさせて育てる。にわかには信じられない話だが、名だたるシェフたちを陶酔させたその味覚は本物だ。
それにしても、飼料に梅酒の漬け梅を使用したきっかけが気になる。「お付き合いのある研究機関からの提案でした。廃棄していた梅酒の使用済み漬け梅を研究したところ、牛がよく食べることがわったのです」と、原野さん。
実際に試してみると、非常によく食べる。つまり健やかに大きく育てることができるのだ。加えてアルコールには、肉を柔らかくする作用もある。漬け梅は、まさに肥育に最適な素材だったといえる。
餌へのこだわりは、漬け梅だけに留まらない。原野牧場では、自ら、ふすまや米ぬか、飼料米、大麦、大豆かすなどを個別に調達し、独自に配合する。原野さん曰く、「肉の味をつくるのは飼料です。成分の比率が同じだと、味も似たものになりがち。これでは面白みがありません。特徴を出すなら、餌を変えることは必須です」。
例えばトウモロコシは、ほとんど食べさせない。脂の融点が高くなり、ザラザラとしつこい風味になりがちだからだ。ウメビーフの「ほんのり甘みが香る、あっさりした風味と、お口でサラッと溶ける食感」は、まず生まれない。肥育ステージに合わせて、最適な栄養バランスを調整できることも独自飼料の強みだ。
適度に締まった鮮やかなピンクの肉質は、飼育環境が生み出すという。何より配慮するのは、牛にストレスをかけないことだ。当然、牛舎には関係者以外は入らない。牛は見た目に反して神経質で、知らない人が立ち入ると安心して眠ることができなくなる。また、匂いにも気を配る。臭い牛舎では、いい肉はできないと言い切る原野さん。徹底して「腸内環境」を整えることで、匂いの原因になる窒素化合物がフンに含まれないよう気を配る。過度なストレスは、肉色が黒っぽくなり、水分も多くなる。快適な牛舎も、品質を握る根幹として無視できないことがわかった。
肥育期間も原野牧場独自のこだわりが光る。近年は採算重視で回転率上げるため27、28ヵ月齢で出荷する農家が大半である。一方原野牧場は、平均33ヵ月齢の長期肥育が基本。この期間を超えても、注文が来るまで育て続ける。いったいどうして?「牛は長い期間育てるほど美味しくなります。また、一度食べると求める料理人もたくさんいます」と、教えてくれた。
もちろん、レストランからの発注が激減したコロナ禍においても妥協はしない。品質を優先して肥育を続けた。
それでも、良い食材は常に誰かが注目し、求めているもの。自宅で上質な食材を楽しむ需要が高まり、スーパーでの販売が増加。さらに2020年6月には、国が行う生産者の支援施策で、近隣の学校給食に大阪ウメビーフを使用する案が舞い込む。原野牧場にとっても良い話だが、何より生徒が喜んだ。これほどの食材を学校で食べられることなど、まずないといってもいい。給食センターでも残さずきれいに食べてくれると話題になったほか、感謝の声を伝える手紙も送られてきたという。まだ事例はある。ローソンのキャンペーンで賞品に選ばれたり、大手自動車会社の販促用プレゼントにも採用されたりした。
新たな販路として、堺市のふるさと納税の返礼品にも応募。地元活性化にも一役買う。
家庭で、レストランで、学校で…。これからも多くの人を、その美味で陶酔させてくれそうだ。
[取材日:2021年2月1日]





梅酒の漬け梅が育む、陶酔の美味。プロを酔わせる、とろける肉質。
「大阪ウメビーフ」
- 取材協力
- 原野牧場
- 〒590-0829 大阪府堺市堺区東湊町4丁228
- tel:072-241-5589 fax:072-241-6046
- mail:s-harano99@nifty.com
- https://www.umebeef.com/
- 事業内容:肉牛(黒毛和牛)の肥育および、加工品の販売。
[ 掲載日:2021年3月22日 ]