150年の経験と最新技術を融合してつくる真のおいしさ「なにわの伝統野菜」

生産者:川﨑農園 川﨑 貴彦さん
大阪府貝塚市

「食べたお客様が、大切な人にも分けてあげたいと思える野菜をつくりたい」。
安政7年の創業から約150年。お客様との関係を大切に、真摯な野菜づくりを続けている農家がある。古くから農業が盛んな泉州地域で、泉州水なすやなんば葱・貝塚極早生玉ねぎといった伝統野菜など広く栽培する「川﨑農園」だ。代々の想いを受け継ぎながら、より優れた野菜づくりをめざすのが6代目となる川﨑孝彦さん。
少し話を聞くだけで、従来の農家の「普通」を覆す独自の取り組みが随所に光る。まず流通先からして個性的だ。お客様は、一般家庭や料理人など1対1のお付き合いが中心。農協や市場には、ほとんど出荷しない。

「プロの農家として、『甘くて、瑞々しくて、生でも食べられる』といった定型の説明はしたくありません。どういう味をめざし、そのために何をしているかをキチンと伝えたい」と、川崎さん。「皆様が胸を張って、『川﨑農園から買っている』と、言ってもらえるよう心掛けています」。

この信頼関係の根底を築くのが、言うまでもなく野菜の質だ。栽培方法も、いわゆる「普通」では収まらない。おいしい野菜の定義は人それぞれだが、川﨑さんが考えるのは採れたてであること。一方で収穫したてを買っても、すぐに食べ切ることは少ない。読者の皆様も、1週間くらい保存していることが多いのでは?「それなら、採れたての状態を1週間もたせればいいのです」。
斬新なアプローチに驚く。もちろん保存料などに頼るものではない。どのようにして可能にするというのだろう。
まず、野菜の成分を第三者機関で分析することから始まる。食味、糖度、ビタミンなどのほか、モノを腐らせる菌の餌になる「硝酸窒素」の量を調べるのだ。このデータをもとに、栄養が豊富で余計な成分が少ない、1週間後も採れたて同然の風味を保てる野菜をつくるという。
狙い通りに野菜をつくるなど、経験やカンでできるものではない。川崎さんは、従来の農法ではたどり着けないアプローチを試みている。肥料は製造工程の資料から取り寄せ、施肥設計まで独自に手掛ける。それぞれの成分にどのような育成効果があるか、完全に把握しているそうだ。さらに、一般的には専門機関へ依頼する土壌検査も、自分の手で月に1度行う。リアルタイムに栄養の吸収具合を確認し、肥料の配分を調整する。すべての情報を理論的に管理することで、常にベストな状態を保つ。

堆肥へのこだわりは特別強い。「今と昔では、素材の割合も質も全然違う。堆肥を探す時は、常にビーカーと水を持ち歩いて品質を調べました。今使っているものは製造工程から素材まで、すべて納得したものです」。150年の実績を蓄えながらも、経験則のみではなく科学的に栽培していくのが6代目流だ。

今年はコロナ禍が食の業界に大きな影を落としたが、個人のお客様が主力の川﨑農園に影響はなかったのだろうか。「一時期、料理屋の仕入れは激減。神戸などは直接配達ができなくなりました。そこで、家での食事需要を見越して、スーパーや漬物店、ネットでの展開に注力しました」。日頃育んだ良好な関係もあって、直売所にも人が途切れることがなかったようだ。普段の丁寧なお付き合いが、非常時を乗り越える力にもなったのだろう。

「今後の目標は、良質な野菜をより多く収穫できるよう工夫を重ね、手ごろな価格でお届けすることです。どんなにおいしくても、高過ぎては選んでいただけない。それでは意味がありません」。栄養豊富な野菜だからこそ継続できる値段でなければいけない。一人ひとりと向き合う川﨑農園の精神は、時を超えて令和の時代でより強く育っている。

[取材日:2020年10月6日]

農園では、午前中だけ直売もしている。個人のお客様や地元の小売店、料理店のほか、京都や堺から足を運んでくれる方も珍しくない。午前中には売り切れることもある。
野菜は、栄養の含有量まで調べる。カルシウムが多い野菜は、施肥設計もカルシウムを増やす。必要とされる成分を過不足なく吸収させることが、おいしく育てるポイント。科学的なアプローチにより、おいしさの理由を理論的に説明してくれる。
化学肥料は与えず、製造証明書を提示できる有機肥料のみを使用。農薬や化学肥料の使用を半分以下に抑えた農作物を証明する、「大阪エコ農産物」にも認定。「なにわの伝統野菜認証制度」も取得し、上質な伝統野菜の普及にも尽力する。
信頼関係を築くため、「大阪版食の安全安心認証制度」を大阪の農家ではじめて取得。衛生管理の公的な証明「HACCP(ハサップ)」も取り入れる。現地に来られず、ウェブで注文するお客様にとっても安心が高まる。
大阪で開催されたG20では、2品目の「鱧と泉州水茄子のお椀」に、川﨑農園の泉州水ナスが採用された。総料理長を担当した料理人の店へ、野菜を出荷していたことがきっかけ。こうしたご縁も、人と人のお付き合いを大切にしていたからこそ。
水質改善や土壌改良には細菌の力を活用。また、植物の病気予防にも化学薬品ではなく、細菌を役立てる。例えば納豆菌を葉に増殖させると、うどん粉病などの病原菌が繁殖できなくなるそうだ。使用する細菌は培養から手掛ける。

150年の経験と最新技術を融合してつくる真のおいしさ「なにわの伝統野菜」

取材協力
川﨑農園
〒597-0031 大阪府貝塚市久保394
tel:0724-42-8046
mail:iiyasaishop@kawasakifarm.com
https://kawasakifarm.com/
事業内容:泉州水なす・なんば葱・貝塚極早生玉ねぎ・小松菜・ホウレンソウ・サラダ水菜の栽培および加工品の製造。

[ 掲載日:2020年11月20日 ]