最上級の味と大きさを叶える、
日本初の養殖技術。
「丹後とり貝」

生産者:京都府漁業協同組合 舞鶴支所
舞鶴とり貝組合長 川崎 芳彦さん
京都府舞鶴市

京の食材・名産品といえば、連想するのは野菜をはじめ野山の幸だろうか?それも確かに魅力的だが、京都には日本海という美味の宝庫があることを忘れてはならない。中でも舞鶴湾は、日本初の養殖とり貝「丹後とり貝」発祥の地として全国に名を馳せる。類を見ない大きなサイズはおいしさの証。肉厚でありながら柔らかく、大型ほど甘み、旨味に優れる。天然に勝るとも劣らない良質な味わいは、「京のブランド産品」に認定されていることでもわかる。

養殖がはじまったのは昭和40年代。水質の変化に敏感なとり貝は、1~2年豊漁かと思えばほとんど獲れない年が続くことも珍しくない。そこで京都府の研究機関と舞鶴の漁業者が協力し、安定供給をめざして取り組んだのがきっかけだった。
その先頭に立ち旗を振ったのが、現在とり貝組合の代表を務める川崎芳彦さん。「とり貝の養殖はまだ誰もしていなかった。難しいからこそ面白いと思いました」と語る言葉通り、すべてが1からの挑戦。資材も人材も技術も何もない状態だったと振り返る。当時は研究機関とともに、さまざまなデータを出し合いながら手探りで進めたという。
試行錯誤の末、特殊な砂を敷き詰めたコンテナにとり貝の種苗を納め、海の中層に吊るす独自技術を確立。中でも砂の開発は困難を極め、30~40種類近い実験を繰り返した。
この成功を機に、養殖地域も舞鶴湾・栗田湾・久美浜湾・宮津湾に広がった。特に湾の出口が狭く内部が広い舞鶴湾は、養分が海に留まるため早く大型に育つ。とり貝の約7割が、ここから出荷されている理由のひとつだ。

良いものができるようになったが、すぐに順風満帆とはいかない。天然も獲れる舞鶴湾では、“養殖は天然よりも下”のイメージがつきまとう。確かに養殖ではあるが、とり貝のエサは海中にしか存在しないため成長のほとんどを自然に任せる。「現地の漁師は養殖ではなく、“育成”と呼んでいます」。川崎さんの言葉からも、限りなく天然に近いことがわかる。むしろ天然にありがちな泥臭さもない。しかし誤解を解こうにも、宣伝の手法がわからなかった。有効な販路も見つからない。とり貝は夏の暑さを越えられないため、売れ残ると処分するしかない。頭を抱える日々が続く。

そんなある日、チャンスは突然だった。道場六三郎さんが、食の講演で舞鶴を訪れたのだ。この機会を逃すわけにはいかない。大胆にも川崎さんは、とり貝を手に楽屋を訪問。プロは優れた食材を確実に見抜く。丹後とり貝は、ついに鉄人に認められ、お墨付きを得るまでになった。それをきっかけに全国放送のTV番組にも出演。放送直後は電話が鳴りっぱなしだったという。「とり貝の『と』の字も知らなかった方にまで興味を持っていただけました。嬉しかったですね」。
一過性の話題で終わらなかったのは、本当にいいものだったから。今にまで至る人気が本物の裏付けだ。

注目度が高まるとともに、より上質なとり貝を届けるための工夫も凝らす。近年では旬の時期に合わせて、身の大きさや衛生状態を確かめる「身入り検査」を取り入れた。地域それぞれの生産者が貝を持ち寄り、一番状態の良いエリアから販売をスタートする。つまり最もおいしいタイミングで出荷しているのだ。

京都の名産品として確固たる地位を獲得し、年々求める声が高まる「丹後とり貝」。それでも川崎さんは、難題だらけだと首を振る。
天然はもちろん、安価なとり貝との明確な差別化もそのひとつ。ブランドを傷つけないよう、生産者の意識を高めることも急務だ。
「誰も真似できない、もっと大型で肉厚なとり貝を舞鶴から出し続けていきたいですね。オーバーに言えば、大サイズ以上しかブランドとして認定しないくらいの気持ちで、組合全体が取り組んでいく。これが目標です」と力を込める。
サイズも味も身入りも、すべてで他を遥かに凌駕する。そんな究極のとり貝を味わえる日は、意外と近いのかもしれない。

[取材日:2019年10月10日]

とり貝の稚貝。ここから約10ヶ月で出荷できる大きさに。成長が早い分、貝殻が薄くデリケート。外敵除去にも気を配る。
稚貝を納めたコンテナは、筏から養分豊富な舞鶴湾に吊るされる。経験と技、環境が、特大の「丹後とり貝」を育む。
2ヶ月に1度はコンテナ内についたフジツボの除去や、砂の洗浄が欠かせない。品質や漁獲量にも大きな差が出る重要な作業。真冬でも一年中休むことなく続けられる。
整えられた環境で長期間育てられるため、他の地域より一回り大きく育つ丹後とり貝。専用計測器でサイズと重さを選別し、厳選したものだけが「丹後とり貝」として出荷される。
丹後とり貝の品質は、漁師がいかに最適な環境を整えるかで決まる。半面、触り過ぎると成長が遅れるため、ケアのタイミングも重要な技術。

最上級の味と大きさを叶える、日本初の養殖技術。「丹後とり貝」

取材協力
京都府漁業協同組合 舞鶴支所
京都府舞鶴市字下安久無番地
tel:0773-75-0531 fax:0773-75-8543
http://www.jf-net.ne.jp/ktgyokyo
事業内容:水産資源の管理および水産動植物の増殖。漁獲物など生産物の運搬、加工、保管または販売。

[ 掲載日:2019年11月20日 ]