大阪産の米を使い、大阪の蔵で、
大阪人が醸す。
「清酒 上神谷(にわだに)」

生産者:有限会社 北庄司酒造
次期四代目 北庄司 知之さん
大阪府泉佐野市

実は古くから、灘や伏見と肩を並べる酒処として名を馳せてきた大阪府。そんな地域性もあり、大阪に魅力的な蔵元があると聞いても珍しくはないが、 “大阪府産の酒米”で造る日本酒となると話は違ってくる。今回訪ねる「北庄司酒造」が醸す清酒「上神谷(にわだに)」は、大阪府の農家が栽培した山田錦のみを使用する日本で唯一の一本だ。

創業は大正10(1921)年。およそ100年続く伝統の酒蔵を支えるのは、次期四代目蔵主・北庄司 知之さん。歴史ある酒造蔵でありながら、年間の生産量は一升瓶で2万本前後と控えめだ。どうしてこれほど小規模なのか。「日本酒市場は右肩下がりです。大量生産をする時代ではありません。そこで25年ほど前から“いい酒を、必要な分だけをつくる”スタンスに変えていきました」と説明してくれた。
意外かもしれないが一般的に市場へ流通している日本酒の約8割は、酒米のみならず食用米も原料に加わる。ところが北庄司酒造は、まじりっけなしの酒米のみ。「いい酒」と胸を張る理由はここにある。外部の蔵人も雇わず、わずか5人ほどのスタッフが「荘の郷」シリーズをはじめ丁寧な酒造りを大切にしている。

ただでさえ珍しい酒造りをしている北庄司酒造の棚に、2年前からとりわけ希少な一本が並んでいる。大阪産の山田錦で醸造する「清酒 上神谷」だ。「上神谷」とは、堺市南区に位置する山間地。酒造好適米の栽培に最適な気候に恵まれ、かつて天照大神が降臨したという伝承から“神の郷”とも呼ばれる。大阪府下で正式に酒米を育てている唯一の農家でもある。一体どのような米なのか?「まず大阪産の酒米が手に入ること自体が感動でしたね。しかも作り方も特別です。田んぼを耕さない『不耕起栽培』と呼ばれるもので、農薬も化学肥料も使わず、自然農法に限りなく近い。この方法で良質な米を育てることはかなり難しいでしょう」。はじめて出会った大阪産の酒米。当時を振り返る声にも喜びが滲む。正直、製品が軌道に乗るかどうかは未知数だったそうだが、生産者の情熱と良質な米が背中を押した。小規模だからこそ柔軟な対応も可能なのだろう。「新しく酒を造るといっても、私たちだけのことなので機転が利く。頑固な職人が入っているわけではないですから」と笑うが、大きな決断だったことだろう。
「蔵の方針は、軽やかでまろやかな風味ですが、上神谷はこだわって育てた山田錦の味を前面に出し、やや濃厚に仕上げました」。いつもと違うテイストに不安はあったものの、米にも酒造りにも自信はある。完成した一本はしっかりした旨味が人気を博し、イベントやレストランでも評判となった。

ゆくゆくは、より多くの酒を大阪産の酒米で造りたいと語る北庄司さん。ただし、課題となるのが、圧倒的な米不足だ。現在は酒造りの傍ら、色々な農家に協力を呼びかけ安定的に仕入れられるような環境整備にも力を尽くす。
大阪産の米を使い、大阪の蔵で、大阪人が醸す。
北庄司酒造がめざす、オール大阪だからこそできる極上の一滴に期待は膨らむばかりだ。

[取材日:2019年8月19日]

創業から98年。伝統を感じさせる外観は、まるで文化遺産。
平成七年に“量より質”の酒造りをさらに本格化するため酒蔵を一新。
外部杜氏を雇わず、社員杜氏が全工程を昔ながらの手作業で丁寧に行う。
大阪国税局が開催する清酒鑑評会をはじめ、さまざまな大会で輝かしい成績を誇る。
時代を超えて愛され続ける、大阪を代表する名品の証「大阪産(もん)」にも認定。
大阪大学日本酒サークルとコラボした純米吟醸「hajime」。日本酒文化を次代へ伝えるため、幅広い取り組みを展開。

大阪産の米を使い、大阪の蔵で、大阪人が醸す。「清酒 上神谷(にわだに)」

北庄司酒造
大阪府泉佐野市日根野3173
tel:072-468-0850 fax:072-467-2455
mail:info@kitashouji.jp
http://kitashouji.jp
事業内容:清酒・酒粕・酒粕加工品

[ 掲載日:2019年9月20日 ]