パプリカ

日本では、輸入が主流になっているパプリカ。国産を味わう機会はそう多くないのだが、実は大阪府内に生産者がいると聞いてさっそく話を聞いてきた。訪れたのは、大阪府和泉市にある「つじい農園」の7代目・辻井義隆さん。約6年会社に勤め、30歳を機に農家へ転身。畑は江戸時代から柿・みかんが中心だったが、秋冬にしか収穫できないことから父親に任せ、自身は野菜作りに取り組んだ。
とはいえ、この地域は水ナス・葉物野菜を中心に農業が盛んで、直売所にも良質なナスやトマトが並ぶ。そこで注目したのが、国内ではまだ希少なパプリカだった。
「国産パプリカはピーマン系の品種が多いのですが、うちは肉厚なオランダ産を厳選しています。また、輸入物の場合は未熟な状態で収穫して、流通の間に追熟させるのが一般的。当農園はすぐに出荷できるので、樹でギリギリまで樹熟させることができます。だから甘さや旨味、香りも濃厚です」と、辻井さんは胸を張る。一番おいしいタイミングで収穫できるのだから、人気が出るのも当然だろう。
加えて独自に栽培をはじめた品目ため、販売先も幅広く開拓できる。営業職で培ったスキルは、農業でも販路拡大に役立てることができた。
こうしてパプリカの栽培を契機に、つじい農園は大きな転換期を迎えることになった。柿・みかんに留まらず、看板品目のパプリカから茎ブロッコリー、オクラ、ニンジン、カブまで取り扱う現在の姿は、ここから第一歩を踏み出したのである。
よりおいしい野菜を追求すると同時に、もうひとつ辻井さんが大切にしているテーマがある。それは“人と人とのつながり”だ。「農家の世界に入って驚いたのが、その閉鎖的な環境でした。農作物とずっと向き合うため、人と関わることが少ないんです。他の業界を知る機会もありません。これでは発展はないと感じました。まあ、普通の農家から見たら僕が異質なんでしょう」と、笑う。会社員を経験した辻井さんだからこそ見えた、業界の課題なのだろう。
本当の農業は、仲間やお客様とのつながりを感じられる仕事。つじい農園も、そういう場所でありたい––。
こうした想いを胸に、イベントでのコラボレーションやSNSを活用したネットワーク拡大、収穫体験などを展開。食育にも積極的で、農園に地域の子どもを招いてニンニクの植え付けを行っている。管理栄養士の資格を持っている奥様も一緒に、自然に触れる楽しさや食べることの大切さを伝える。
将来は、もっと色々な人が情報交換をすることで、農業の持つ可能性をさらに広げていきたいと、夢を語ってくれた。
次代へ向けて、ますます精力的に活動を拡充していくためには、乗り越えるべき課題もある。年々上昇する配送料金である。ネットワークが拡大しても、流通エリアが限られていては飛躍の足かせになる。
「流通コストを下げることができれば、もっと多くの人においしい野菜を届けることができます」。
栽培技術のみならず、人のつながりや食育、流通にまで考えを馳せる。それが、つじい農園のめざす“みんなを笑顔にする農業”だ。
[取材日:2019年3月20日]

家族全員でパプリカをはじめとする、上質な野菜や果物を栽培している。

今では、つじい農園の看板商品に。


ハウス栽培のため、通常より早く出荷可能に。


パプリカ
- つじい農園
- 大阪府和泉市
- tel:090-9983-1574
- 事業内容:パプリカ・茎ブロッコリー・おくら・柿・みかん・季節野菜などの栽培
[ 掲載日:2019年5月20日 ]