下田なす

なす(茄子)は全国各地で栽培されている。じつは、それだけ品種の数も多い。ところが、関西の市場でよく見かける千両なすなどは、ハウス栽培によって年中店頭に並ぶ。つまり、出回る品種は片寄っているのだ。逆に、栽培される地域の周辺でしか知られない個性ある“なす”への注目が高まることになる。滋賀県「近江の伝統野菜(14種)」に入る「下田なす」もそのひとつ。
下田なすの特徴として挙げられるのは、サイズが手のひらに収まるほど小振りなこと。それに、皮は柔らかく、甘味が強い。また、灰汁の少ないことから、他のなすに比べて料理に使い勝手がよいと、近年は料理人の間での評価が高い。
伝統野菜に挙げられるほどだから、もとは滋賀県の下田と呼ばれる旧甲西町の地域で古くから作られていたなすらしい。それを現在のように広めるきっかけをもたらした生産者が、山中千代治さんといわれている。「近所の農家さんで自家栽培されているのを見て、自分も育ててみようと、種を分けてもらい、栽培方法とかを教えてもらったのです」そうして、下田なすが世に知られることになった。
山中さんは、それまでトマト、パプリカ、メロンなどを栽培しており、山中さんの育てるものはおいしいと評判になり、流通業者からも下田なすの栽培をすすめれていたという。「それで本腰入れようと、いろいろ試してみました。これなら市場に出せる、と自信を持っていえるのができるまで数年かかりましたけどね」
種は自家採種でずっと通している。 3月に種を蒔き、苗が大きくなれば、目が離せなくなってくる。取材に訪ねたのは早めの時期だったが、すでに実は生りかけていた。「露地栽培ですから、適度に葉をまぶいて実にキズがつかないよう注意すること。それに、7月になったら毎日の水遣りが大変です」夏には、畝の間に水を張る、畝間冠水が絶やせないという。そうして、小振りながら水分の多いなすになるのだ。
「不思議なことに、同じ種からでも下田以外の土地では小振りの下田なすらしいなすにはならないのです」と山中さん。今では、JAの支援もあり、地元で下田なすを手がける農家が増えつつあるという。山中さんのなす畑には、滋賀県「環境こだわり農産物栽培ほ場」の看板があった。農薬・化学肥料を通常の5割以下に減らし、さらに琵琶湖・周辺環境への負荷を減らして栽培している。
「なす部会の世話役で、あちこちへ教えにまわったり、うちの畑に見学に来るひとを迎えたり、忙しくしてます」などと、山中さんに話をうかがっていてわかったのだが、山中さんは本来の農家さんではない。会社勤めの後、独立して鉄工所を起ち上げたり、その合間に“趣味”としていろんな野菜を育てていたらしいのだ。今は、鉄工所は息子さんが引き継ぎ、悠々自適の身でますます野菜作りにのめり込む日々という。「下田には、下田なす以外に古くから伝わる『弥平とうがらし』というのがあって、これからはその栽培に力を入れようかなと考えています」などと。
いやはや、初めは単なる趣味であろうとも、人柄や才能によるのだろうけれど、創意工夫し丹精込めて育てれば、多くの人に注目される出来栄えの野菜ができるのだと、あらためて思わされたのだった。
[取材日:2018年6月27日]





下田なす
- 下田なすは、10月中頃まで出荷されます。ご購入などは以下の店舗へ直接ご連絡してください。
- JA花野果市(はなやかいち)水口店
- 滋賀県甲賀市水口町水口6111-1
- JA花野果市(はなやかいち)石部店
- 滋賀県湖南市石部中央4丁目8-50
- ここぴあ
- 滋賀県湖南市岩根4528-1
- 参照
- ・近江の伝統野菜について(滋賀県)
http://www.pref.shiga.lg.jp/about_shiga/fuwari/10_07/ - ・滋賀エコじまん 環境こだわり農産物について(滋賀県)
http://shigaquo.jp/environment/#c_1
[ 掲載日:2018年9月20日 ]