賀茂なす

生産者:河北農園 河北 卓也さん
京都府綾部市

最近、京都の『洋食おがた』(*味・技・人 激白ストーリー63)をはじめ、名だたる飲食店で評判になっている生産者のひとりが河北農園の河北卓也さんだ。田畑は京都府綾部市にあり、米や野菜などいろいろな作物を育てていると聞き、評判の理由を探るべく訪ねてみた。

ちょうどこの時期は、力を注ぐ賀茂なすが旬をむかえる頃。賀茂なすといえば、京の伝統野菜、ブランド京野菜、いずれにも認定された京野菜の代表的な品種である。大きな丸いかたち、皮は薄いけれど黒紫色の光沢、実の質は緻密で瑞々しいなどの特徴をもつ。今では京都市内だけでなく、京都府内の各地でつくられている。そのほとんどが露地栽培だが、綾部市の農家は早くからハウス栽培に取り組んでいた。

「賀茂なすは育てるのに手間がかかるんです。がくや葉の先が鋭いでしょう。皮は薄いから、こすれるだけでキズがついてしまう。果実に触れないよう注意していますが、ハウス内は風もなく、ゆれないのがいいんです」と河北さん。ナスは一般的に枝葉を発達させねばならず、水分も充分に与えることが必要といわれており、ハウスなら天候に合わせて臨機応変の水遣りが可能と、ハウス栽培の利点を話す。

加えて、河北さんが工夫しているのは肥料だ。近くの精油所から、ゴマ油をつくるときに絞ったゴマの残滓を譲り受けている。「畑の土で発酵させると、いい堆肥になるのです。ゴマの脂分がいくらか残っていますから、油との相性もよい賀茂なすに育ってくれます。ナスは、油で揚げたり焼いたりの下処理すると美味しさも増すようです」そうして、料理されるまでのイメージをもって、育てるのだという。

河北農園の賀茂なすが評判になる一端を見た思いだが、田や畑、それに賀茂なすのハウス栽培は、父から引き継いでいるとはいえ、ここまで来るのに20年かかっている。「以前は、販売を委託していましたが、大事に育てたものが売れなかったらどうすればいいか常に不安でした。そうした待ちの姿勢ではダメだと思ったのです」

まず、手がけたのが、当時から栽培されていた酒造好適米の山田錦の活用だった。「父のつくる米は評価が高かったのです。せっかくだから、地元・綾部の日本酒ができないかと、関係者に声をかけて綾部の蔵元と共に酒造りを始めました」その結実が、若宮酒造の製造する特別純米酒「穂乃花(ほのか)」だという。今では、綾部の銘酒として広く知られ、製造量や販路は限られているけれど、全国から注文がくるまでになっている。さらに、伏見の醸造元、北川本家の清酒「富翁(とみおう)」にも河北農園の山田錦が使われている。

そして、野菜づくりにもより積極的に取り組むようになったという。それも、狙いを定めたのは、プロの料理人だ。「食材としての良し悪しを見極めてもらうことで、僕の育てる野菜を判断してもらおうと考えたのです」と河北さん。

わずかな伝手をもとに、収穫した野菜を京都市内の飲食店に自ら持ち込んでまわった。なかに評価してくれる料理人がいて、そういうところから少しずつ取引先が増えていった。「縁としかいいようのない関係ができて、それが今の資源です」。賀茂なすも、父の代から手がけているからこそ、引き継いだ後の河北さんなりの工夫が生きるというもの。そういう意味で、今あるまでに20年がかかっているのだ。

現在では、取引先の賀茂なすのサイズ指定とか細かいリクエストに応えながら「お店に合ったものをどうしたらつくれるか、試行錯誤しながら料理人さんと共に頑張れることが楽しいです。近頃は、ポップコーンに向いたトウモロコシとか、こちらから提案できるものも手がけたりしています」

積極的に前へ向かう、いわば攻めの姿勢で農業に取り組むことで新たな道を開いたのが、今の河北農園なのだ。何をつくるか、どう育てるか、そして、それらをどのように売るか、考えようによって農業の可能性はいくらでも広がると思われた。

[取材日:2018年4月6日]

取材日は4月初めで、賀茂なすはまだ苗を植えたばかりの状態。ハウス2棟で約 360本の苗を育てる。
苗の生育具合を確かめる河北さん。現在、賀茂なすや米以外に、ルッコラ、辛味ダイコン、キクイモ、万願寺とうがらしなどのプロ向けの野菜、他に椎茸や柚子なども育てており、年中忙しそうだ。
河北農園の山田錦100%の特別純米酒「穂乃花」(製造:若宮酒造、販売:綾部の酒を創る会)

賀茂なす

「賀茂なす」に関する問い合わせは
丹州 河北農園
京都府綾部市多田町前路6-3
電話番号:0773-42-4724
*ご注文などは直接ご連絡してください。
若宮酒造株式会社
京都府綾部市味方町薬師前四
電話番号:0773-42-0268
*ご注文などは直接ご連絡してください。
参照
・京の伝統野菜にいて(京都市)
http://www.city.kyoto.lg.jp/sankan/page/0000029058.html
・京の伝統野菜について(京都府)
http://www.pref.kyoto.jp/kenkyubrand/brand1.html
・ブランド京野菜(京のブランド産品)について(京都府)
http://www.pref.kyoto.jp/brand/brand_yasai.html

[ 掲載日:2018年5月21日 ]