醸造酢

生産者:お多福醸造株式会社 佐々木 孝雄さん
広島県三原市

食材と同じく、加工食品もそれをつくる人たちの日頃の努力の賜物であるという話を流通関係者からよく聞かされる。日本酒、味噌、醤油などを例に挙げるまでもなく、各地ごとの嗜好や条件に応じてつくれば、自ずと多品種にならざるを得ない。

近年注目を集める“地ソース”もそのひとつ。家庭用と業務用を合わせれば何百種類とあるだろう。とくに粉モン好きの関西には有名無名の地ソースがひしめいている。ところが、そのなかでも、なぜか広島のオタフクソースがよく使われているのだ。「お好み焼き用ソースをはじめ商品アイテムが多く、新商品も次々に生まれるし、店ごとの細かいニーズにも合わせられる」らしい。そこで、広島へ行ってその秘密を探ってきたという流通関係者の報告を伝えよう。

ひとつは、ソースの特性にあった。「ソース類は醤油と比べて意外とつくりやすいのです。原材料をみればわかると思いますが、野菜や果物の他に、必ず醸造酢が入っていて、オタフクソースの強みは、この醸造酢でした」

酢は、日本農林規格(JAS)では「食酢」と呼ばれる酸味調味料。原料や製造方法によって種類が分けられている。醸造酢は、米、麦、コーンなどの穀類、果実、野菜、その他の農産物、アルコールなどの原料を、酢酸発酵させて製造した液体調味料を指す。

オタフクソースは、もともと酢をつくる会社から始まっていた。現在はグループ企業になっているが、酢をつくる会社は「お多福醸造株式会社」として存続し、醸造酢、みりん風調味料、料理酒、甘酒などの醸造製品を専門に開発、製造、販売をおこなっている。同社の佐々木孝雄さんによれば「醸造と付くように、酢は酢酸菌の他、麹菌や酵母から発酵させてつくるところは酒と同じ。いわば微生物の力を借りる訳ですから、水や空気のきれいな環境を保つことが大切。それに昭和13年に開始して以来培ったノウハウが蓄積されている」ということだった。そうした資源をもとに、ソース、ケチャップ、たれといった派生商品の幅を広げているのだ。

さらに、流通関係者はオタフク・グループの企業姿勢を挙げる。「とにかく自社開発にこだわることです。ソースの原料となる醸造酢のブレンドには自信がありますから、ソースでは後発ならお好み焼き用のソースに的を絞るなど独自性を発揮。これまで開発した商品は二千種を越えるそうです」

醸造酢もソースも世界共通の調味料。それが日本では、料理のジャンルを軽々と越えて何にでも対応してしまう。加工食品ひとつにも日本の生産者の底力を実感するのだった。

[取材日:2017年1月30日]

広島県三原市大和町にある工場。広島の酒どころ西条に近く、地下から汲む水がまろやかな酢のもとになる。
米を蒸して麹菌を繁殖させる。こうした発酵を担う職人の姿は、酒の醸造と変わらない。
「静置発酵法」による食酢の発酵。半地下式のタンクで時間をかけて発酵させる。

醸造酢

取材協力
東果大阪株式会社
http://www.toka-osaka.co.jp/
お多福醸造株式会社
http://www.otafukujozo.jp
オタフクソース株式会社
http://www.otafuku.co.jp/index.html
参照
・農林水産省「食酢品質表示基準」
http://www.caa.go.jp/foods/pdf/kijun_43_110831.pdf

[ 掲載日:2017年3月3日 ]