あんみつ姫

生産者:石橋果樹園 石橋 健一さん
佐賀県佐賀市

冬になると、みかんがおいしい。だが、おいしさの基準は変化している。近年は甘いのが好まれ、みかんはますます甘くなっている。甘酸っぱい味を懐かしく思う人もいるけれど、甘くないと売れないのだから、こればかりはどうしようもない。当然のこと、生産者はみかんを甘くするよう努力する。例えば、熟れて甘味を増すまで貯蔵庫で熟成させる「蔵出しみかん」が各地のみかん産地でつくられている。

蔵出しみかんのなかでも、流通関係者から評判がいいと聞いたのは、佐賀県の「あんみつ姫」だ。「糖度が12度以上、甘いのにしっかり酸味もあって、ただ甘いのではなくおいしいのです。みかん農家が集まる地域をあげて熟成させる方法を研究し、かつ品質を保ち、あんみつ姫と名付け市場に出荷されているのです」

その生産者のひとり、石橋果樹園の石橋健一さんに話をうかがった。およそ10aの果樹園でみかんを育てている。主につくっているのは温州みかんという。「早生は9月頃から収穫できるのですが、貯蔵用の基準をみたすのは10月になってからですかね」と、大きさや出来具合などに応じて厳しく選果していると話す。

また、育てる段階からの工夫もある。「7月から8月にかけて、みかんの木の下の土を白っぽいマルチシートで覆います。みかんに余分な水分を与えないよう、雨水を通さず、土壌の水分を少なくしていくためのものです」また、白いから太陽の光を反射させて、みかんの色艶を増す効果もあるそうだ。

さらにそのシートの上には、紙袋に堆肥を詰めたものを押さえとして置いていく。「袋に手詰めしたり、均して置いていくので手間がかかるのですが、この作業も大事なのです」日が経つと紙が溶け、堆肥の養分が土に浸透していくという。

そうして、水っぽさがおさえられ、有機の養分を充分に蓄えられることで、糖度が高くなったみかんができる。それを順に収穫して、貯蔵庫で寝かすのだ。

「うちは3ヶ所に貯蔵庫があり、12月までかかって順に貯蔵していきます。寒いなかで熟成させて、さらに糖度を上げていくのです」その蔵出しには、センサーによる糖度と酸味測定で選別が行われ、選ばれたみかんだけが「あんみつ姫」として出荷される。1月から3月まで、出荷も順に行われる。石橋さんに確認したところ、最後のほうが特別甘いという訳でもないそうなので、ご安心を。

「これまでは、勘に頼る部分が多く、各自それぞれ培ってきた方法で育ててきました。それが、地域で取り組むことで、科学的なデータも取り、マニュアル化していくなど安定した栽培の確立を目指しています。貯蔵庫も、冷風の機械化を導入したり、栽培と同じようにより確実な熟成方法の確立を目指しています」と石橋さん。

消費者が望むまま、日本のみかんは、確実に甘い果物になっていく道を歩んでいると実感するのだった。

[取材日:2016年12月1日]

佐賀市大和町にある石橋さんのみかん畑。びっしりと白いマルチシートで覆われている。ぽつぽつと置かれているのが重し替わりの堆肥入り袋だ。
石橋さんの貯蔵庫のひとつの庫内。こうした引き出しのような箱に寝かして、みかんの熟成を待つ。
収穫後の選果と貯蔵庫で熟成具合を確かめる石橋さん。熟成もただ寝かせておくだけでなく、風通しなど環境の調整にも心を配るという。

あんみつ姫

取材協力
東果大阪株式会社
http://www.toka-osaka.co.jp/

[ 掲載日:2016年12月27日 ]