壬生菜(みぶな)

生産者:縣 康平さん
大阪府貝塚市

壬生菜は京の伝統野菜のひとつだが、大阪でも育てられていると聞いて、取材に出かけた。訪ねた先は、大阪府貝塚市堀で六代続く農家の縣 康平さん。今は野菜作りを専門にし、夏は枝豆、冬は壬生菜に力を注いでいるという。

壬生菜は水菜(みずな)の仲間で、ひと株に細長い茎と葉がいくつも束のようになる姿は似ているけれど、よく見ると違いがわかる。壬生菜の葉には、水菜のようなぎざぎざはない。それに、ひと株に生える密集具合は壬生菜のほうが密なようだ。

「壬生菜には独特の香りと辛味があって、水菜に比べて葉が柔らかいので、味わいも違うはずです。これから寒くなるほど、おいしくなりますよ」と縣さん。

案内してくれた流通関係者によれば、近年は、葉もの野菜も同じ品種に多くのバリエーションがあり、サラダ用と称する“か細い”水菜まで出回っているそうだ。

「消費者の多様なニーズに合わせて改良されると、シャキシャキとした食感が失われた水菜というものまで出てくるのですね。壬生菜は、生食でも、もちろん鍋でもおいしくいただけますし、まだまだ固有の壬生菜らしい質が求められていますから。それが、いわゆる、ありふれた普通の野菜と伝統野菜の違いでもあります」

ところが、葉の柔らかさは、ウィークポイントにもなる。「傷めないよう注意して運ばないといけないのがネックになり、壬生菜は広く流通されていない」とのこと。

縣さんのところではハウスで栽培されている。とは言っても「土で育てていますし、ハウスはほとんど雨避けみたいなもの。促成栽培ではないので、天候に合わせた水やりの管理など、繊細なだけに気を遣います」

そうして育てられた壬生菜はこれから最盛期を迎える。縣さんは、近所の直売所に出してはいるが、収穫のほとんどは漬け物用として出荷先が決まっているという。壬生菜は、京都でも多くは漬け物に使われているそうだから、大阪ではこの泉州地域のみだが、じつは京阪神の各地で作られているというのもうなずける。

流通関係者は「今ではクール宅急便があり、小口の注文でも送って応えられるようになっていますが、鮮度が求められる野菜は地産地消というか、需要のある消費地の近くで栽培され供給されるというのが、本来の姿なんでしょう」と話す。

生産者の側に立てば、生計にかかってくるのだから、品種ひとつおろそかにはできない。大きな市場を控えている大阪近郊の農家には、どういう野菜を育てるかという選択肢の幅が広い。その結果、多様な品種が手がけられているのだと、あらためて実感するのだった。

[取材日:2015年11月19日]

壬生菜が収穫期をむかえるハウスの様子。縣さんは、計4aのハウスで枝豆と壬生菜を交互に育てている。
壬生菜は、種から約60日で収穫できるまで育つという。出荷にあたっては、葉に水をかけて箱詰めする。

壬生菜(みぶな)

取材協力
東果大阪株式会社
http://www.toka-osaka.co.jp/
*縣さんの作る壬生菜については、東果大阪株式会社に直接お問い合わせください。

[ 掲載日:2015年12月8日 ]