リンゴ 千秋(せんしゅう)・金星(きんせい)

リンゴは暑さに弱く、日本で育てられる地域は限られている。主な産地は生産量の多い順に、青森県、長野県、以下東北各県となる。関西は、各地産に頼るしかない。
結実は年一回、ほとんどの品種が9月から11月にかけて収穫される。近年は、収穫後に鮮度を保ちながら長期間貯蔵できる技術が進み、リンゴはほぼ一年を通して出回るようになっている(だからこそ、まさに今が旬であることを意識したい)。
品種も栽培方法も多様である。たとえば、よく知られた「ふじ」は、有袋ふじ、サンふじ、葉取らずふじ、などに細分化。有袋は、袋をかぶせて栽培するもので、保存に適したリンゴが育ち、4月頃から出荷される。サンと付くのは、陽光を直に浴びて育つから同じ品種でも糖度が高くなる。葉取らずは、実のまわりの葉を繁らせたまま自然にまかせるもので、形や色はまちまちだがリンゴらしいリンゴになる。という具合だ。
話をうかがった流通関係者によれば、貯蔵・保存の技術を高めるのは「産地の使命」という。産地には、まとまった数量を供給するだけでなく、需要とのバランスをはかりながら出荷をコントロールすることも求められるのだ。「良いリンゴとは、味も落ちずに日持ちするものといわれるのも、そうした背景に拠るのです」
また、産地には消費者の嗜好を無視できない宿命もある。流通関係者は「多くが流通の事情や日持ちの良さに加え、売れ筋の商品特性に合うようなリンゴの育て方になるのも無理からぬこと」としながら、「しかし、手間はかかるし日持ちもしないけれど、あえて自身が本当においしいと思えるリンゴを育てている生産者もおられるのです」と話してくれた。
流通関係者が注目しているのは、青森県弘前市でリンゴ農園「おりかさ蜜ツ星農園」を営む成田 晃さん。「省力化が推進されるなか、成田さんが、広い園内で、リンゴを一個ずつ太陽に向け回して歩いたり、手間を惜しまずリンゴに合わせた育て方を実践されている姿に共感を覚えるのです」なかでも、お勧めの品種があるという(以下は流通関係者の話から)。
ひとつが「千秋(せんしゅう)」。ふじから派生した品種で、鮮やかな紅色をしている。「酸味によるスッキリとした味と果汁の多さが特徴です。育てるのが難しい品種ですが、成田さんはジュースを作るために、生果用と変わらぬ栽培を心がけているそうです。そうして出来たリンゴジュースは、透明度も高く、ホントおいしい」とのこと。
もうひとつが「金星(きんせい)」。デリシャス系で、淡い黄色をしている。「おりかさ蜜ツ星農園」のある地区、折笠で育成された品種ともいわれている。「成田さんは、50年ほど前に品種登録された木を代々受け継いで、育てているそうです。果肉はジューシー、香りが強いのが特徴です。市場には保存させたのが出回りますが、成田さんの金星は、旬を大事にしてこの時期に味わうのが最適です」とのこと。
各産地には、様々な取り組みがあるとはいえ、長い年月をかけてリンゴ産地となった矜持がある。流通関係者は取材のあと、「現地でこそ、初めてわかることがあるのです」と言い残し、青森の成田さんのところへ出張に出かけた。
[取材日:2015年9月30日]



リンゴ 千秋(せんしゅう)・金星(きんせい)
- 取材協力
- 東果大阪株式会社
http://www.toka-osaka.co.jp/
*おりかさ蜜ツ星農園のリンゴについては、東果大阪株式会社に直接お問い合わせください。
[ 掲載日:2015年10月9日 ]