アスパラガス

この食材レポートでお世話になっていると、流通関係者も生産者と同じくらいに大変な仕事をしているのがわかる。大阪をはじめ関西の巨大なマーケットの食を満たすためには、地元産で足りなければ(前回の食料自給率を参照)、他所から仕入れるしかない。そのため、年の半分は全国各地の産地めぐりに費やされるらしい。
今回は、産地視察出張から帰阪したばかりの流通関係者に話をうかがった。いま注目しているのは佐賀県産のアスパラガスという。「これからの時期、収穫できるのを夏芽と呼びますが、佐賀県産アスパラガスの良さはこの夏芽にあるんです」
日本でアスパラガスを“食用”として本格的に栽培し始めたのは北海道とか。昭和30年代というから歴史はまだ浅いが、今や、産地は全国に広がる。緑の国産アスパラガスが2,3本結束されて店頭に並んでいる姿は、当たり前のようになっているけれど、瓶詰めホワイトアスパラしかなかった世代には隔世の感がするだろう。
「アスパラガスは多年生なので、同じ株で何年も収穫可能です。土中の根から新しい茎が伸びてくるイメージですね。その性質を生かし、小さな面積でも効率よく収量を上げられるようにハウスでアスパラガスの栽培に取り組んだのが佐賀県でした。現在は、九州の北半分(長崎、佐賀、福岡、熊本)が大きな産地になっています」
「佐賀県から広がっていったのは、立茎(りっけい)栽培という手法です。3〜4月に一度収穫。これを春芽と呼びます。後は、1株当たり3〜5本残し葉を繁らせておきます。すると、また新しい茎が生えてくるのです。これを夏芽と呼び、6〜10月に二度目の収穫を行います」そのタイミングにあわせ、生産地の佐賀市川副町(かわそえまち)でテラマル農園を営む寺丸吉徳さんを訪ねたのだという。
「川副町は有明海に面し、半分以上が干拓の土地。大規模に耕された畑の光景は、関西で見られないほど広々としています。周囲に山や高い建物がないから日当たりはいいし、河口でもあるので土壌は肥沃。アスパラガスを育てるには日照量や肥料が結構必要とされるので、栽培には適していたのでしょう」
なかでもテラマル農園の寺丸さんは、佐賀大農学部の修士過程にあたる農業版MOT(MOTは技術経営)で学ぶなど農業に積極的に取り組んでいる。「話をうかがえば、有機質の肥料を使用したり生育管理など熱心に研究されているのがわかりました」
「アスパラガスの夏芽といえば、たいてい皮の繊維がこわばって硬いのですが、寺丸さんの育てたアスパラガスは柔らかいのです。それも日頃の取り組みの賜物と思われました。地元の料理人に評価が高いという話もうなずけますよ」
というように、流通関係者は出張の成果を話してくれた。こういう訪問の積み重ねが、関西に新たな良き食材をもたらしているのだと実感したしだい。ところで、関西ではアスパラガスを栽培していないのかと問えば、こういう答えが返ってきた。「種から収穫できるまで3年かかること。先駆者がいないので、本腰入れて手をつける人もいないと思われます」しばらくは、各地のアスパラを求めるしかないか。
[取材日:2015年5月1日]


アスパラガス
- 取材協力
- 東果大阪株式会社
http://www.toka-osaka.co.jp/ - テラマル農園のアスパラガスは、以下の「一品一会」でも取り扱っています。
- https://www.rakuten.co.jp/1pin1e/
*ご利用される場合は、直接お問い合わせください。 - 参照
- ・佐賀大農学部農業版MOTについては、以下のHPを参照。
http://www.ag.saga-u.ac.jp/MOT/index.html
[ 掲載日:2015年5月12日 ]