きな粉

製造・販売:株式会社向井珍味堂
大阪市平野区

きな粉は、大豆を煎り、挽いて細かく粉にしたものである。健康食材として見直されている大豆、その粉なのだから、もっと注目されてよいはずだが、同じ仲間の味噌、醤油、豆腐などと比べれば、アピールが少し足りないのではないかと思える。

これからの季節、餅とともに食べる機会も増えることだし、今回はきな粉の現状を探ろうということになった。訪ねたのは、大阪市平野区にある向井珍味堂。プロには知られた会社であり、昭和22年(1947年)の創業以来きな粉を作っている。

営業部の松村さんによれば、向井珍味堂は業種でいえば乾物商になるらしく、きな粉を代表する穀物粉各種の他、唐辛子や七味などの香辛料各種、青のり類、ゴマ各種や即席漬け物の素などを製造・販売している。いずれも少量多品種の生産態勢が求められ、実際はできたての鮮度が重要になるものばかりという。

「たとえ少量でも、取引先の細かなニーズに応え、そこにしかないオリジナルなものを作らせてもらっています。きな粉なら、常に60種以上を受注生産。現在、きな粉だけをみれば、関西で使われる約70%のシェアを当社で占めています」とのこと。

あべかわ餅、おはぎ、わらびもちをはじめ、和菓子に今や洋菓子も加え、きな粉を使った商品は数多くあるはず。そのなかにあって、知らないながら向井珍味堂のきな粉を口にしている確率はかなり高いことになる。ほとんどコモディティ(ある商品の一般化)みたいな話だが、向井珍味堂ならではの差別化があればこそ。

「きな粉は香りが命。大豆は油分のまわりが早いので、作り置きを避けようと思えば、できたてをすぐに出荷できる受注生産が理想なのです」と松村さん。また、製造過程においても長年の間に培ったノウハウが随所に生かされているのだという。

「煎る工程には、当社で開発した流動層焙煎装置を使用しています。ガスバーナーの300℃になる熱風であおっていますから、豆の芯まで均等に火が入るのです。同時に、風味や色つやを保ちながら殺菌できる技術も導入。香りが良く、低菌数タイプとして乳製品にも応用可能なきな粉が作られるのです」と、工場長の高見さん。

「収穫された大豆の質に合わせ、オーダーを受けた風味になるよう、焙煎する温度や時間を調整していますが、香りや色の微妙な仕上がり加減をはかるのは、ほとんど職人技ですよ」こうして、1日に何十種類もの特製きな粉を作り分けると話す。

もちろん自社販売用のきな粉も作る。新しめの商品は、粉が細かく色の濃い「黒須(くろす)きな粉」という。香りが立ち、味の濃いものが好まれる最近の傾向に合わせて開発された。また、きな粉ではなく、ストレートな「大豆粉」も開発。こちらは、小麦粉、米粉に続く“第三の粉"として注目を集めるものだ。

さらに、きな粉とメレンゲだけのロールケーキまで作っている。「きな粉屋さんのロールケーキ」とネーミングして、こちらもブランド商品ではなく、あくまでもコモディティ化を狙う。煎って挽くだけとはいえ、されど、きな粉なのだった。

補足
大豆には、骨粗鬆症、更年期障害、乳ガンなどに有効とされる研究が発表されて期待される大豆イソフラボンが含まれる。また、低糖で、脂肪の吸収を減らし基礎代謝を高めるなどの効果も知られている。

[取材日:2014年11月20日]

左が営業部の松村進一さん、右が工場長の高見政暁さん。
大豆はこれまで職人が生産地を訪ねて厳選したところと取引。現在、国産は65%。仕入れるのはキズがなく不要なものが混入していない純度の高いものばかり。
流動層焙煎装置。大豆をガス火で煎るのは、コーヒー豆の焙煎と同じだ。最適な焙煎温度に調整できるように1℃刻みでデジタル制御されている。
小売り用の100g袋詰め。右が「黒須きな粉」で、左の通常のきな粉と並べると色が濃いのがわかる。

きな粉

取材協力
東果大阪株式会社
http://www.toka-osaka.co.jp/
株式会社向井珍味堂
大阪市平野区加美西1丁目12-18
代表:06-6791-7337
http://www.mukai-utc.co.jp/
*ホームページでは業務用商品の販売を行っている。また、上記住所の本社に併設された店舗で小売りも行っている。

[ 掲載日:2014年12月5日 ]