原木シイタケ自然子

生産者:飯阪 誠さん
大阪府和泉市

シイタケ(椎茸)は、キノコと呼ばれる菌類に属し、動物や植物とは区別される。例えば、雌雄はなく、菌が育って傘の形をしたキノコ(子実体という)になる。日本で、シイタケが食材として親しまれるようになったのは、古来より人工的な栽培に取り組んでいればこそ。いかに菌を育てるか、その探求はまだ続いているのだ。

生シイタケに限れば、今や、エノキタケ、ブナシメジに越され、生産量は第三位。しかも、市場に出回るのは二極化の傾向らしい。違いは、菌の育て方といわれる。ひとつは、人工の菌床(きんしょう)での栽培。他方が、自然にちかい原木での栽培。いずれも、もとになる種菌は同じだが、どの栽培方法をとるかで違いが表れる。

販売時に表示を義務付けられた「しいたけ品質表示基準」(農水省)によれば、次のような説明になる。菌床栽培とは「おが屑にふすま、ぬか類、水等を混合してブロック状、円筒状等に固めた培地に種菌を植え付ける栽培方法」。原木栽培とは「クヌギ、コナラ等の原木に種菌を植え付ける栽培方法」。消費者に向けて表示が必要なのには、両者の間で、なにか大きな違いがあるからと思われる。

今回訪ねた飯阪さんは、原木でシイタケを育てる。「兼業の両親が30年程前に始めたのですが、資料を読んだり研究しながら栽培していました」ご自身は会社勤めを選んだけれど、17年前に転身。シイタケの原木栽培を継ぐことになった。

「原木は手間がかかるし、成長させる時間もかかります。菌床は、栄養剤や添加剤の入った培地で育てるから、生育期間も短く効率的です。しかし、菌が原木の中で、木自体の栄養を摂取しながら育つほうが、自生とは言えないけれど、自然な姿であるはずです。どちらが、キノコ本来のシイタケなのかは、自明でしょう」

飯阪さんは、シイタケのほかに野菜も栽培している。すべて無農薬の自然農法という。そうした実践から、どういう方向を目指しているかは自ずと理解できよう。

「細かく言えば、原木栽培にも違いがあります」種菌には、成型菌という、菌も培地もセットされたものがある。それを使うのであれば、原木で菌床栽培をしているのと同じだ。飯阪さんは、木片に菌糸を培養しただけのコマ菌といわれる種菌を植える。これだと、初めて植菌してからシイタケが採れるまでに2年かかるとのこと。

「コマ菌を一度埋め込めば、原木の中に菌糸が伸びているから、1度収穫した後も、しばらくは何度か樹皮を破ってシイタケがはえてくるのです」その原木が並べられた山を案内してもらった。スギ木立の林、時折日が差し、空気は清涼。こうした自然の環境で、自然に近いかたちで育つシイタケは“自然子”と呼ばれている。

「収穫を終えた原木は、山でゆっくり休ませてから谷川に浸けるのです。菌が冷水に刺激を受け、危機を察知するみたいで、生き残ろうと子実体を出すようです」なるほど、飯阪家には、30余年に渡って蓄積されたノウハウと整備された専用の畑があるのだった。

「この時期、いつもなら最盛期なのに、今年は天候不順で、生育が遅れ気味。早めに出てきた“走り子”を食べてみてください」と、原木になったシイタケをもいでくれた。饅頭みたいな肉厚の傘をかじると、ぷりっとした食感で、口の中にうま味と強い香りが広がっていく。見た目も、味わいも、初めて体験するシイタケだった。

これから収穫される秋・冬ものは、うま味を溜めているので、とくに旨いという。「シイタケは、天ぷらにすると、風味が閉じ込められるのか、味の違いがよくわかりますよ。焼くときには、裏返したりしないこと。表面に出てくるうま味を含んだ汁を逃さないようにしてくださいね」

流通関係者によれば、近年、国産キノコが注目されるなか、原木シイタケの需要は高まる一方とか。ところが、林業の衰退で、原木となるクヌギやコナラの材木を集めるのが困難という。飯阪さんからは「親の代から応援してくれているお客さんもいて、もう、そう簡単に止める訳にはいきません」と、心強い言葉が返ってきた。

[取材日:2013年10月31日]

収量の調整がおこないやすいハウスでの原木栽培。シイタケの様子を見る飯阪さん。
コマ菌を埋め込んだ原木は、植えた箇所ではなく、あちらこちらから樹皮を破ってはえてくるのが特徴という。
杉の木立は、真っ直ぐに伸びて葉も少ないために日差しが地面まで届き、風通しもよく、原木栽培には最適とか。
種菌を植えられた原木は「ほだ木」と呼ばれる。並べ方にも様々な形がある。この原木を確保していくのが今後の課題となる。

原木シイタケ自然子

取材協力
東果大阪株式会社
http://www.toka-osaka.co.jp/
飯阪誠さんのメールアドレス
E-mail:rtkm92026@ares.eonet.ne.jp
ブログ
http://iisakafarm.blogspot.jp
参照
・農林水産省しいたけ品質表示基準
http://www.maff.go.jp/j/kokuji_tuti/kokuji/k0001193.html

[ 掲載日:2013年11月11日 ]