栗

日本で栽培され市場に出回る栗は、ほとんどが野生の栗を品種改良したものという。なにしろ、縄文時代から食べられ、自生していたのがモトになっているのだ。本来は、ニホングリと呼ばれ、他国の栗とは区別される。日本原産を強調するなら、“和栗”の呼称でもいいのに、さほど広まっているようには思えない。栗は栗である。
しかし、天津なんとかみたいな、むき栗になるのは中国産の栗なのだから。日本の栗について、少しは知っておいたほうがいいよと奨められ、生産者を訪ねた。
和歌山県のJR海南駅から車で山間へ向かう。梅、ミカン、柿といった樹木が茂り、いかにも和歌山の山側の風景が続くなか、着いたのは、紀美野町。この地で、13代目という「マルイチ農園」を継ぐ、北耕三さんと姉の裕子さんに話をうかがった。
「栗栽培を本格的に始めたのは、先代の父でした。40年程前、奨励されていたミカンではなく、あえて栗と梅を選んだようです。標高300mはある永峯山系に山林があり、粘土質の赤土、寒暖の差が大きな気候、南東に開けた日当たりの良さなど、良い栗を育てる条件がそろっていたのも大きな要因だったと思います」
現在は、栗に限れば、350本になるという。先代とともに栽培するのは、耕三さん。「父が自然と共生する農法を目指しているので、山の土壌の力に頼ってきたのです。栗の木は落葉樹ですから、落ち葉が肥やしにもなりますし、ほとんど自然なままに育ててきました。今では、品種も13くらいに落ち着いています」と話す。
「ホントは、品種の違いを味わってほしいのです。例えば、水分が少なくホッコリした栗は、栗ご飯とか蒸すのがおすすめ。水分が多めでネットリしたのは、焼くとおいしい。見た目ではわかりにくいですが、それぞれ食感の違いもありますし」
ところが、栗の栽培では、混植がよいとされている。純血を大事にするより、生きる力をつけるため、異なる品種を接ぎ木する場合もあるとか。いわば、育ち方も野性的なのだ。それに、栗独特の収穫方法がある。実が成熟すると、イガイガの殻斗(かくと)ごと枝から落ちる。ころがっているのを拾い集めてまわるのだ。そうしたことから、品種を厳密に分けて出荷するのは、ニーズがあるときに限られる。
マルイチ農園の主力は、日本の栗と中国の栗を掛け合わせた「利平(りへい)」、日本原産で広く栽培されている「筑波(つくば)」、いずれもホッコリ系で、実は甘い。それに、丹波栗の代表種、大阪で生まれた「銀寄(ぎんよせ)」などだ。
「ニホングリは、外側の堅い鬼皮と実には渋皮があって、むくのが邪魔くさいでしょ。ところが、近年、渋皮が簡単にむける新品種が生まれて注目を集めているんです」と、裕子さん。鬼皮に切り目をいれて加熱すると、指で割れば、鬼皮に渋皮がひっつくようにむけるそうだ。「品種名が、ポロタンというものかわいいでしょう」2007年に登録されたばかりの新種だが、もちろん、マルイチ農園でも育っている。
裕子さんは、農園ビジネスを一手に引き受ける。シニア野菜ソムリエの資格ももち、食品加工による商品開発や販売ルートの開拓など多様な活動をこなしている。
「うちの栗は、大事に育てているから、品質や味には自信があります。それに、安心ですからね。これからは、マルイチ農園ブランドで、栗ジャム、栗アイスクリームなどの製造・販売にもっと力を入れていきたいですね」と、熱く話す。
その拠点となる事務所・加工所は、既に設置済み。いまは、近くにある農協の古い米倉庫をリノベして、ギャラリーにしようか、カフェにしようかと計画中である。
農産物を育てて売るだけでなく、新たな価値を加えた商品にしていく手腕は、これまで和歌山では何度も見聞きしてきたもの。ここでも、また、和歌山の生産者魂を実感したのだった。
[取材日:2013年9月27日]






栗
- 取材協力
- 東果大阪株式会社
http://www.toka-osaka.co.jp/ - 紀州マルイチ農園
- http://maruichi.ikora.tv
- ブログ
- http://blog.goo.ne.jp/maruichifarm
- 紀州マルイチ農園の栗は、以下の「一品一会」でも取り扱っています。
- http://item.rakuten.co.jp/1pin1e/10000980/
- *ご利用される場合は、直接お取引ください。
- 参照
- ・「ポロタン」の開発者、農研機構(独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構)のHP
(ニホングリは渋皮のむける遺伝子を隠し持っていた)
http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/press/laboratory/fruit/045945.html
[ 掲載日:2013年10月7日 ]