まりひめ

生産者:はないちご農園 田渕 道人さん
和歌山県日高郡美浜町

イチゴは、いつの間にか、次々と新しい品種が出回り、何を選べばいいか困るほどだ。農水省のサイトで検索すれば、235件もの登録品種がある(因みに、イチゴは、メロンやスイカと同じく野菜に分類され、果実的野菜として扱われている)。

そうしたなか、流通業者が注目するトレンディなイチゴは、和歌山産の「まりひめ」という。和歌山県が「章姫(あきひめ)」と「さちのか」を組み合わせて開発し、2010年に登録されたばかりの新品種である。大粒で、甘く、香りがよいなどの特徴をもつ。「近年では、ずば抜けておいしい」と聞き、生産者を訪ねた。

うかがった先は、和歌山県日高郡美浜町にある、はないちご農園。田渕道人さんと今日子さんの夫婦で、まりひめだけを栽培している。なんと、「脱サラし、イチゴを育て始めて、もうすぐ3年。収穫は2度目になるところです」という。

県や町の支援もあるとはいえ、まりひめのために独立したようなものだ。しかし、田渕さんから「実家は農家なので、畑仕事には慣れています。勤めていたゴルフ場では、グリーンキーパーをしていましたから」の話を聞けば、勝算があってのこととわかる。土壌や肥料、農薬などの扱いに関しては経験豊富なプロだった。

しかも、田渕さんには展望がある。「野菜はたいてい、収穫して出荷するだけ。けれど、イチゴなら、収穫後に加工して新たな製品にすることができます。そういう食品加工も視野に入れて、農業を多角的に広げていきたいと考えています」

まりひめは、その基盤となる、希望の星なのだ。「県の指導によれば、年4回の収穫が可能ですが、今は、収穫の回数を減らしても、低温でゆっくり熟成させて“完熟”になる方法を試しています」と、田渕さんは価値の底上げをはかる。

どうやら、流通業者には、この完熟具合が功を奏しているようだ。「大粒なのに加え、見た目の艶がよい。それに、肉質がつまっていて、日持ちがするんです。もちろん、香りが強いから風味もよく、ジューシーでおいしい」と、好評なのだ。

田渕さんは、土耕栽培と高設栽培の2通りで育てている。それぞれのハウスを見せてもらった。土耕というのは、畑の土で育てるもの。高設というのは、腰高くらいに設置された人工の畝で育てる。「培土には、美浜町で取り組む松葉堆肥、微生物が豊富な堆肥を混ぜるなどして自然の力を活用しています」

受粉は、いずれもミツバチにまかせる。病害虫の防除には、農薬に頼らない方法を探る。「採ってすぐ口にしても安心できるよう、特に配慮しています」田渕さんはこれまで、微生物資材を使っている。こうした日頃の取り組みは、ブログで公開されており、誰もが確認できる。

「すべてに、まだ改善すべきことが多いのです」とはいうものの、2回の収穫で確かな手応えをつかんでいる様子。実際に、大きく育ったまりひめを食べさせてもらうと、先端からへたの部分まで甘くて、風味も変わらず、おいしくいただけた。

「これだけ糖度が高いと、ジャムやソースにするときに、砂糖を控えめにしても甘いのですよ」と田渕さん。夫婦で自家製の加工にも力が入っているようだった。

3月から5月始めまで、冬の寒さに耐えてさらに甘くなったのが出荷されるという。存在自体も今や旬のイチゴ、まりひめに注目されたし。

[取材日:2013年2月26日]

土耕栽培のハウス。畝の両側にイチゴが垂れるように生っている。
高設栽培のハウス。現在、土耕、高設、合わせて約9,000株を育てる。
冬の間は、赤くなるのも時間がかかるという。その間、ゆっくり熟成し、粒も大きくなっていく。完熟のまりひめを見せる今日子さん
冷凍庫で保存しているフローズンまりひめ。オールシーズン対応で、使い勝手のよい商品になりそう。

まりひめ

取材協力
東果大阪株式会社
http://www.toka-osaka.co.jp/
はないちご農園ブログ
http://harunatsumk.blog66.fc2.com/
はないちご農園のまりひめは、以下の「一品一会」で購入できます。
http://item.rakuten.co.jp/1pin1e/
*ご利用される場合は、直接お取引ください。
参照
・まりひめについての和歌山県公開資料
http://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/070109/news/001/news111_5.pdf
・松葉堆肥についての美浜町の説明
http://www.town.mihama.wakayama.jp/sanken/matukyu.html

[ 掲載日:2013年3月5日 ]