カリフラワー

生産者:島中 佳紀さん
兵庫県尼崎市

「尼崎に、質の良い野菜を育てている生産者がいてはるよ」芦屋の二つ星料理店『京料理 たか木』で、ご主人の髙木一雄さんに教えられ、訪ねに行った。

尼崎といえば、工場地帯のイメージが強いけれど、それは海側。山側には、かつて武庫郡に属した村落があり、農業が盛んだったという。訪ねた生産者の島中佳紀さんも、代々続く農家を引き継いでいる。ただし、島中さんは、肥料や農薬に化学系を排除した自然農法で野菜を育て、差別化をはかることで新たな道を探る。

「手がけている野菜は、ひょうご安心ブランドとして兵庫県認証の基準を満たしています。それに、尼崎の伝統野菜にも力を入れてますよ」と、開口一番、畑で見せてくれたのは、武庫一寸(むこいっすん)ソラマメの苗。

尼崎には、武庫一寸や富松一寸(とまついっすん)呼ばれるソラマメがあり、いずれも、大阪の伝統野菜のひとつ、河内一寸より伝来は古いという説がある。

しかし、島中さんは地元の伝統野菜に固執している訳ではない。髙木さんをはじめ、料理人へ野菜を届けているうちに、料理人が望むものをオーダーメイドで栽培するようになり、珍しい野菜など少量多品種を扱う生産農家になっていた。

「例えば、ほうれん草でも、西洋料理ではソースにしたり、日本料理ではお浸しにしたり、使いかたが異なります。色、茎や葉の堅さ、厚さなど細部にわたって、求められることがちがうのです」それに「フランスやイタリアでは、地域のちがいが、食材に現れます。料理人が修業した地域で使っていたのと同じ野菜を指定されると、それぞれにあった品種を別々に用意しなければならないのですから」

こうした細かな要望や、指定された品種を新たに育てるなどのニーズに応えていくと、今や1年を通じて約60種の野菜を栽培するまでになっていた。畑は、露地とハウス、合わせて計60aある。すべてが自然農法という。

「種は、固定種を取り寄せています。近頃は、商社のような種苗会社があり、どんな種であっても世界中から購入できます。初めての品種でも、何科かわかれば、たいていは育てられます。必要な情報はネットなどで探せられるし」と島中さん。

畑を順に見せてもらうと、この時期、収穫の済んだ畝が多いなか、スウェーデン蕪などの根菜類、チーマディラーパなどの西洋菜花が収穫期にあるようだ。ナポリのソウルフードと呼ばれ、イタリアンではお馴染みの菜花、フリアリエッリもある。畑には、別種の西洋菜花としか呼べないような菜っ葉も育っていた。

自然という意味では、島中さんは「旬を大事にしています」という。品種ごとで、自然に収穫期を迎える、そうした循環を無理に調整したりはしていない。「この時期、冬野菜がおいしい。寒くなるほど糖分も高くなるし、香りもいいですよ」

島中さんがすすめる冬の野菜は、カリフラワーだ。近年、市場での人気はブロッコリーに押され気味で、生産量も減る傾向にあるらしい。「比べれば明快なんですが、ブロッコリーよりもカリフラワーのほうが、蕾が密集しているのです」

よく見せてもらうと、カリフラワーでも花蕾の色が異なる。ロマネスクもあるし、多品種を同時に育てているのがわかる。「白いのは、美星という品種。とくに、おすすめのカリフラワーなんです」といわれ、かじってみた。

なんと、瑞々しい。これまで経験していた、乾いたボロっとした食感ではなく、汁気の多い、セロリやアスパラガスの茎をかじったようだった。味もよい。

よく考えてみれば、尼崎といえば、芦屋など阪神間の都市と隣接した地域。大阪や京都の都市近郊の農家と同じである。関西では、島中さんのような生産者が各地にひかえ、多くの料理人を支えているのだと、あらためて実感したのだった。

[取材日:2013年1月24日]

住宅に囲まれた畑のひとつ。西洋菜花の生育の様子を見る島中さん。
美星という品種の白いカリフラワー。花蕾が硬く結びついている。
グリーンのカリフラワーは、やや奥手だけど、おいしいという。
ブロッコリーとカリフラワーの掛け合わせといわれるロマネスク。近年は、市場にも出回るようになっている。
オレンジや紫の色をしたカリフラワーも育っている。

カリフラワー

参照
・兵庫県認証食品「ひょうご安心ブランド農作物」について
http://web.pref.hyogo.jp/af07/af07_000000008.html
・武庫一寸ソラマメについて(尼崎市のHP)
http://www.city.amagasaki.hyogo.jp/dbps_data/_material_/localhost/sosiki/083/mukoissun-1.pdf

[ 掲載日:2013年2月5日 ]