ミニ天王寺蕪

会社員からの転身。農業に本腰入れてまだ3年目。けれど、自然の力を信じ、独学と知見を広げながら、自然農法で野菜作りに取り組む生産者を訪ねた。
─ここでいう自然農法は、実践する個人の見解を尊重するものであることをお断りしておきます。有機農業については、農林水産省の農林JAS規格によって定められているのだが、有機農業に似ている自然農法は定義さえないのだから。
農業は、資格が必要なわけでもなく、簡単に始められる。飲食店を開業するには、食品衛生責任者などの認可を得なければならない条件があるのと比べれば、手軽で簡単と思われる。ただし、農家になるなら農家資格というのがあり、資格をとるための様々な条件をクリアーしなければならない。つまり、農家と認められなくても、野菜を作り、自力で販売して生計をたてることは可能なのだ。
ひと昔前は、振り売りと呼ばれ、生産者が収穫した農作物をもって町へ売りに出るのを欲しい者が買い求めていた。現代、店先などを借りて直売するのも同じ。オフィス街では、昼食時間になると、路上販売の弁当を求めて行列ができる。かように、食べ物に関しては大らかで自由な交換というか商いが成立する。
しかし(誰もが思うように)、農業は甘くない。いつでも始められ、どこでも売れるなら、すでに多くの従事者を目にするはずだけど、現実はそうではない。
大岸靖則さんは、3年前に100坪の耕作地を確保した。「運良く借りられたので、畑にするための土造りから始めました」それが、農業へ打ち込むスタートとなり、今では、大阪府富田林市に、合わせると約16aの畑をもつまでになる。
「妻と相談して、農業するなら、農薬や化学肥料を使わずに野菜を育てようと決めたのです」そして、必要な知識は本やインターネットで調べ、独学。「できた野菜を自分たちで食べていると、妻のアトピー症状は治まるし、インフルエンザにもかからない。体質が変わってきたと実感できるようになったのです」
そうなると、他人にもすすめたくなる。「伝手を頼りに、店先などで直売を始めました。すると、自分たちと同じ考えで野菜を育てている人たちとも知り合えて、仲間と呼べる関係が広がっていったのです」と大岸さん。
仲間が増えると情報も増える。「ある日、直売市で飛ぶように売れているレンコンがあって、それが河内レンコンだと教えられました」大岸さんはすぐ行動に移し、門真市に河内レンコン用の畑10aを借り、今年収穫できるまでになった。
「いつもは、肥料に落ち葉とかを使っていたのです。最近、米の精と呼ばれ、米糠からできる有機肥料があることを教えてもらい、試しています」と、大岸流の自然農法は、試行錯誤しながらでも、日に日に絶えず進歩をとげている。
例えば、この季節、天王寺蕪の収穫をむかえる。今年で3回目となり、自家採種で育て、成長の具合も把握できるようになった。「小蕪なので、煮ると、最後には全部溶けてしまいますよ」その小蕪のさらに小さな蕪の実を指して、「このミニ天王寺蕪は、丸ごと使えて、生食にも向いていると好評なんです」
大岸さんは、失敗も楽しみのうちと、苦労話はあまりしない。同じ野菜でも、自然農法で育てた野菜という価値を大切にし、さらに、ミニ天王寺蕪のような副産物でも新たなニーズを掘り起こしていく。すべてが前向きの姿勢なのだ。
まだ農家とは呼べない個人レベルの生産者であっても、取り組みしだいでは、食材のけっして小さくはない可能性が開けることを教えてくれるのだった。
[取材日:2012年12月5日]




ミニ天王寺蕪
- 取材協力
- 東果大阪株式会社 / http://www.toka-osaka.co.jp/
- 大岸さんのHP(たまぎし畑)
(ご利用される場合は下記サイトと直接お取引ください) - http://tamagishifarm.jimdo.com
- 農林水産省の有機農業に関する情報案内
- http://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/yuuki/index.html#kanrenjyouhou
[ 掲載日:2012年12月11日 ]