ブドウ

生産者:川崎葡萄園 川崎 一也さん
奈良県五條市

日本の果物のなかで、糖度が最も高く、食べて甘いのは葡萄(ブドウ)とされる。収穫量でみれば、リンゴ、ミカンが断トツの各78万t。次いで、スイカ(36万t)、ナシ(25万t)。第5位グループ(各18万t)に、カキ、メロン、ブドウが並ぶ(農水省2010年統計)。

ブドウの場合、日本では収穫される80%が生食用という。品種改良がすすみ、ハウス栽培など育てる技術が確立され、今やほとんど全国で作られている。なかでも、近年は、巨峰やピオーネなどの大粒の品種、いわば高級ブドウの消費が伸びている。

親しんできた小粒のデラウェアなんかは、種なしになり食べやすくなったとはいえ、もはや大衆ブドウ。それより、大粒で歯切れがよくて果汁たっぷりなほうが、果皮をむいても食べたくなるのは道理。需要の変化にあわせ、栽培農家も力を注ぐ。

と言うわけで、この高級ブドウ、多様化の様相をみせている。実際に、どんな品種が栽培されているのかを勉強するため、収穫をひかえる近場のブドウ農家へ出かけた。

訪ねたのは、奈良県五條市。カキの産地として知られる旧吉野村だ。ここで唯一のブドウ専門農家が、川崎葡萄園。二代目の川崎一也さんに話をうかがった。

「畑は、国営総合農地開発事業によって造成された土地です。もともとは柿畑のために、ダムなど灌漑施設も整備されたようです。ここで、父が30年程前にブドウを作り始めました。ブドウを栽培するのも初めてだし、1軒だけだったと聞いてます」

ブドウは、苗から植えても、安定して収穫できるまでには10年かかるといわれる。
あえて挑戦した父の均(ひとし)さん(まだ、現役)。当初から、生食用の大粒品種を手がけていたというから、今日の高級ブドウ人気を見越す先見の明があった。

現在、川崎葡萄園では、130aの畑でブドウを栽培する。ほとんどが大粒品種で、その数20種。ハウスごとに生育を調整しながら、7月中旬から10月末まで順に出荷する。

20種は以下のとおり(巨峰は、商品・商標名であるように、すべてが品種名とは限らないが、市場で通用する名で表記)。系統など整理せず、ランダムに紹介する。

巨峰 日本で生まれたキング・オブ・ブドウ、ワインレッド
ピオーネ 巨峰とマスカットの交配種、味はまろやか
シナノスマイル 巨峰よりも粒が大きい、鮮やかな紅色
藤稔(ふじみのり) ピオーネを改良した黒ブドウの高級品
ロザリオビアンコ マスカットの一種でまろやか、白黄色
ゴルビー 赤く巨大な粒で、味は見た目と同様、濃厚
安芸(あき)クィーン 農水省産、鮮やかな紅色と上品な甘味が特徴
翠峰(すいほう) 農水省産、無核で極大粒、緑色ブドウの新品種
赤嶺(せきれい) 山梨生まれ、実は卵形で赤茶色、上品でさわやかな甘さ
黄玉(おうぎょく) 巨峰群品種の白黄色ブドウ、他にない香りがおすすめ
ハニーレッド 大粒の赤ブドウ、ハニーの名のごとく甘い
オリエンタルマスター 国の農研機構の新品種、巨峰と似るが種なし栽培が可
スチューベン 中粒の品種、紫黒色、糖度が高い
ニューナイ 実は楕円形の白色品種、香りが強く、完熟するとミルキー
ブラックビート 2004年登録の新品種、青黒い皮で、あっさりとした味
マスカットビオレ マスカット香をもつ、紫色の皮が薄いので、皮ごと食せる

これらに加え、川崎さんが「この数年で、注目されているのが、皮ごと食べられるブドウです。加工もしやすいので、菓子店の引き合いが増えてます」とすすめるのは。

シャインマスカット 国の農研機構の新品種、成熟時は黄緑色、種もない
瀬戸ジャイアンツ 黄緑色、果実はゼリーのような食感、種もない
マニキュアフィンガー 先端が赤いのが名の由来、リンゴに近い風味、種はある
ピッテロビアンコ 別名レデイーフィンガー、種はあるが、スモモに近い食感

形や色も多様で、もちろん味にも個性がある。川崎さんは「品種によって手入れがちがうし、まだ育て方を試行中のものもありますが、楽しいですよ」と話す。川崎葡萄園では、30年かけて、多品種の大粒品種を同時に栽培できるノウハウを培ってきた。

日本のブドウは、いつの間にか、高級品種が普通になるような、とんでもない事態になっていた。そういえば、日本人が育てる果実は質がよく、海外に出しても好評といわれる。川崎さんちのブドウを食べられるのも、ひょっとして今のうちかもしれない。数年後には、すべて輸出用になっていてもおかしくない、そう思えてくるのだ。

[取材日:2012年6月29日]

巨峰がなる棚。1本の木から伸びる枝は分散させ、誘引によって針金に固定する技術が確立、約80房は収穫できるという。
ひと房ごとに袋がかけられ、収穫を待つ。
ニューナイの出来具合をみる川崎さん。父から引き継いだ品種とあわせ、自らも積極的に新しい品種の栽培に取り組む。
21個目の導入品種は、バナナ。その名のとおり、成長するにつれて実が弓形になるらしい。ただいま試作中。

ブドウ

取材協力
東果大阪株式会社 / http://www.toka-osaka.co.jp/
川崎葡萄園のブドウは、お中元・贈答用に求める個人客への対応でおわれ、夏の最盛期が過ぎるまでは新しい注文に応じられないという。問い合わせは、上記の東果大阪株式会社まで。
参照
・国営総合農地開発事業については、下記の五條市HP
http://www.city.gojo.lg.jp/www/contents/1143005768441/index.html

[ 掲載日:2012年7月10日 ]