夏ナス

生産者:浅岡 弘二さん
大阪府富田林市

梅雨の季節になったが、野菜のカレンダーではすでに夏に入っており、これから夏野菜が出荷のピークを迎える。茄子(ナス)もそのひとつ。ちょうど1年前に泉州水ナスを取り上げたので、今回は、水ナス以外のナスについて訪ねてみた。

大阪府富田林市の野菜農家、浅岡農園は、1年を通してさまざまな野菜を育てている。なかでも、トマト、キュウリ、ナスなどの果実を食用とする果菜類が多い。ナスでは、とくに力を入れているのが大阪ナス。続いて、水ナスや白ナス。ロッサビアンカ、フローレンスパープルなどイタリア生まれのナスも手がけている。

ナスは、90数パーセントが水分で、栄養素には特筆すべきものがない。それでも、古来より日本人に親しまれてきたのは、何らかの効能が認められるからだ。鎮静や消炎の薬理効果は、微量とはいえステロイド系アルカロイドがあるから。皮ごと食すのがよいとされるのも、紫色したアントシアニン系の色素、これはフラボノイドの一種でもあり、抗酸化作用をはたすから、という具合。

各地で栽培されるにつれ、地域それぞれの環境にあったナスの品種が、形や大きさも含め多様に生まれている。しかし、泉州水ナスのように、全国的に通用するブランドナスとなると数少なく、ほとんどが生産地周辺で消費される。

浅岡農園の浅岡弘二さんによれば、泉州水ナスと同じ種で栽培しても、富田林は泉州ではないから、できた水ナスを泉州水ナスとは呼べないという事情もあるようだ。

その替わり、富田林で地域をあげて取り組んでいるのは、大阪ナスの栽培だ。中長のナスで、千両ナスと呼ばれる品種と同じだが、やや大振りに育つ。「色艶がよくて、実は大きいし、小さな種が入っていないので食べやすいですよ」と、浅岡さん。

千両ナスは、関西では家庭向きに出回るナスの代表品種。近年はハウス栽培によって年中店頭に並ぶ。大阪ナスもその馴染んだ姿と近いからなのか、ようやく地元に知られると同時に生産量も増えて、大阪府のなにわ特産品に選ばれている。

浅岡さんは、こうした野菜を、ハウスでも畑の土で栽培する。あえて「土耕栽培」 といって、土と向かい合う。「海藻を中心に、アミノ酸や植物の生育には欠かせないミネラルなどを補強。それに稲わら、籾がらなどの植物性の堆肥によって、野菜づくりに適した土にしています。化学肥料ではなく、有機物の力を信じてますから」。

また、「野菜を育てるには、野菜の気持ちになって世話をすることが大事」と話す。浅岡さんは、育てるだけではなく、食べる側にもたって野菜のことを考えたいと、野菜ソムリエの資格を取得している。

珍しい品種にもチャレンジするのは、その延長にあるようだ。「イタリア料理だってナスを使うわけですから、イタリアのナスを作ってみたいと思ったのです」

ロッサビアンカやフローレンスパープルというナスは、イタリア産固定種から栽培。 「まだ、成るようにしか作れませんが、日本のナスとの違いもわかりました。実がしっかりしているので、漬け物とかより、油で炒める料理にあうんです」と話す。

加えて、白ナスもある。「白ナスは、えぐみが少ないし、慣れたナスの味ではない独特のおいしさがあります。それに、皮に紫の色素がないから、料理しても色がにごりません。取引先の焼き肉店で、大阪ナスと白ナスを輪切りにし、並べて出すと、お客さんに好評という話も聞いてます」

ナスばかりではない。トマトでは、桃太郎という品種で、酸味と甘味をバランスよくもたせて育てること。その他、ひげまで甘いフルーツトウモロコシなど、浅岡さんの野菜作りに関する興味深い話は尽きることがない。

生産者が、同じ野菜を育てるなら、少しでも高く売れるものを、と考えるのは当然である。大阪ナスをブランドにしようと地域で取り組むのも、そのひとつの表れだ。けれど、ブランドに拘泥するのではなく、自分で納得できる野菜を作って認めさせる方向もある。流通関係者が、浅岡農園に注目するのもよくわかるのだった。

[取材日:2012年6月9日]

大阪ナスの生育具合をみる浅岡さん。ハウスでは、約6,000株の大阪ナスが育てられていた。
白長ナスは、30cmくらいまで成長する。実はしまっているが、加熱すると、意外に食感はとろっとして柔らかいという。
ロッサビアンカ、フローレンスパープル
どちらも、米ナスや丸ナスに似た丸みのある姿形。皮にやや白と赤紫が混じるほうがロッサビアンカ。いずれも、ヘタは薄い緑色をしている。

夏ナス

取材協力
東果大阪株式会社 / http://www.toka-osaka.co.jp/
浅岡農園
http://www.urbanfarm-asaoka.com/
E-mail:asaji@urbanfarm-asaoka.com
参照
・大阪府/なにわ特産品に関する情報は、以下のHPを参照
http://www.pref.osaka.jp/nosei/naniwanonousanbutu/tokusanhin.html
・野菜ソムリエに関する情報は、以下のHPを参照
日本野菜ソムリエ協会(旧:日本ベジタブル&フルーツマイスター協会)
http://www.vege-fru.com/

[ 掲載日:2012年6月18日 ]