魯山人醤油

今回は、醤油(しょうゆ)の話なので、先におさらいを少しだけ。醤油は、味噌(みそ)と同じく、穀物を発酵させて造られる。それぞれの製法は中国より伝来しているが、日本独自のものへ発展し、今や日本の食に欠かせない調味料となっている。
発酵には、微生物の介在が必要だ。微生物は生息する土地に属するものなので、土地によって(つまり、国によって)、微生物が作る物質に違いが出てくる。その違いは、それぞれ特有の香りに現れる。例えば、日本料理や中国料理に独特の風味を感じるのは、各国独自の発酵食品を使っているからではないか・・。
という話は、関西食文化研究会のイベントでおなじみ、川崎寛也さん(農学博士)の講義でもよく耳にする。日本が日本酒を大事にするように、フランスではチーズやワインを大事にする。発酵食品は、それだけ各国の食文化を表しているのだ。
和歌山県湯浅町の湯浅醤油を訪れ、代表の新古敏朗さんから次のような話を聞いたとき、思い浮かべたのが、上記の、発酵食品=各国食文化の代表説だった。
新古さんは、関東の某大手食品メーカーが昭和30年代から醤油の海外進出をおこない、醤油が世界に認められるきっかけになったことに敬意をはらいつつ、こう話す。「醤油は、海外でソイ・ソース(soy sauce)の名で知られています。しかし、私が渡欧し、自社製造の醤油を、一年や二年と時間をかけて発酵させ、いかに醸造しているかを説明すれば、皆さん驚くのです。これは、ソースではなく、ワインと同じではないか、と。価値を認め、醤油に対する認識を新たにしてくれるのです」。
湯浅町は、日本に醤油を広めた地とされる(詳しくは下記のHPを参照)。江戸時代には紀州藩の加護もあり、醤油醸造が大いに栄えたという。しかし、明治以降は、醸造技術や製造・販売形態の近代化が進むなか、由緒ある湯浅の醤油も淘汰された。
新古さんは、その湯浅町で明治14年(1881年)創業の、味噌や醤油を製造する家業(現・丸新本家株式会社)を受け継ぐ5代目である。「歴史を引き継いだ者として、 日本の醤油の元祖である湯浅の醤油を、世界に知らしめたいのです」と話す。
ちなみに、同じ発酵食品でありながら、醤油は日本農林規格(JAS)によって定義や種類別規格など細かく規定されているが、味噌にはない(商品表示は義務づけられている)。それだけ、味噌は数値化が難しい自然まかせ的食品なのだろう。しかし、醤油は、規定があるからこそ、材料や造り方によって優劣が明確になるといえる。意識して内容を見れば、商品のちがいがわかるのは、日本酒と似ている。
「だから、世界が認める最高の醤油を造りたいのです。そのためには、まず、原点に立ち戻り、本物を造ること。そうすれば、自ずと道は開けるはずです」。
新古さんは、家業の醤油部門をより専門化するかたちで再編成。平成14年には新たに湯浅醤油有限会社を立ち上げた。「天然の杉桶でじっくり寝かせて仕込んだり、塩水に大豆の煮汁を使ったり、醤油造りに適う方法はしっかり伝承する。一方で、現代の嗜好にあわせ、かけるだし醤油やカレー醤油などの商品開発も進めてます」。
また、新古さんの思いを地域のひとに理解してもらう活動にも着手。醤油の醸造蔵を見学できるようにし、小学生が醤油造りを体験できる食育プログラムも始めた。
こうした積み重ねによる成果は、徐々に現れている。世界の食品品評会モンドセレクションに出品した醤油が金賞や最高金賞を連続で受賞。ミシュランの星を獲得している海外のシェフが、湯浅町の蔵まで買い付けに来るほど知られるようになった。
そして、平成24年には、湯浅醤油10年の集大成ともいうべき新商品が完成している。
主原料の大豆と小麦は、無農薬・無肥料の自然農法で育てられた北海道産。米は新潟のコシヒカリなどと厳選し、杉桶で熟成させた、天然本醸造と呼べる醤油だ。
「魯山人倶楽部さんと共同で開発したので、『魯山人』と命名させてもらいました。美食家の魯山人が好んだ薄口醤油を目指したのですが、うま味の指標となるアミノ態窒素が通常値よりも高く、これまでにない醤油ができました」と、新古さん。
3月23日からの発売に、反応は早く、すでに再注文も多く入っている。プロの料理人からの評価も高いそうだ。「限定1万本の予定でしたが、追加製造も考えます」。
今回は、注目を集める魯山人醤油を取材しに出かけたのだが、日本の食を支えながら進化する、醤油という発酵食品の奥深さをあらためて実感させられたのだった。
[取材日:2012年4月23日]






魯山人醤油
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- 湯浅醤油有限会社
- 和歌山県有田郡湯浅町1464
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FAX.0737-63-5789
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*ご利用される場合は、直接お取引ください。 - 丸新本家株式会社
http://www.marushinhonke.com
フリーダイヤル 0120-345-193 - 参照
- ・しょうゆの日本農林規格(平成十六年)については、以下のHPを参照ください。
http://www.maff.go.jp/j/kokuji_tuti/kokuji/k0001090.html
[ 掲載日:2012年5月10日 ]