喜味の鶏子(きみのとりこ)

米や野菜に自然農法があるのと同様、鶏を育てる場合にも自然の力を生かそうと考える飼育方法がある。“自然卵養鶏”と呼ばれ、鶏を土の上に放ち、抗生物質の薬剤や化学配合飼料を使わず、緑草や自家製の発酵飼料を与えて飼育する。今回は、その実践者で、採卵が専門の養鶏農家、タナカファームを訪ねた。
鶏舎は、葛城山の山麓、大阪府南河内郡河南町にある。車で登った山間の中、それも、かなり傾斜のきつい地形に建つのだが、鶏を飼育するには良い環境という。
「鶏は暑さに弱いので、春と秋の季節が長い高地の気候は適してるんです。斜面だと日当たりもいいし、風通しも良くなるように、吹きさらしで育ててます」
タナカファームでは、田中元子さんに話をうかがった。農家を継いだ夫と共に養鶏を始めたのは昭和60年代初頭。「安心して食べられる卵を求めるなら、鶏からまっとうに育てなければいけないと思い、卵のための養鶏を始めたんです」と話す。
当時、自然卵養鶏を広めるための組織、全国自然養鶏会が立ち上げられたばかりで、その活動を知ったことが、理想の鶏卵追求へ本格的に取り組む契機になった。
以来、長い年月をかけ、自分たちなりの飼育方法を確立させ、安定的に生産できる態勢を調えていった。今では、タナカファームで収穫できる鶏卵は、「喜味の鶏子(きみのとりこ)」の名で出荷され、ブランドとして知られるまでになった。
現在の飼育数は約1600羽。ほとんどが、ボリスブラウンという産卵用(卵が赤味を帯びている)に育種開発された品種で、雛から卵を産む成鶏になるまで育てる。
鶏舎では、土の地面に平飼い。密集しないよう100羽前後に分けて別々の鶏舎で育てる。「土の中には微生物もいて、口にする鶏には自然と抗体ができ、抵抗力がつきます。それに走り回ったりすることで体力も増し、病気にならない強い体になるのです。だから、うちの子は元気でしょ」と、田中さん。
また、雄鶏と雌鶏が同じ鶏舎内で育てられている。成長すると自然に交配するようになり、雌鶏は受精した卵つまり有精卵を産む。「今の雌鶏は、品種改良されて、受精しなくても卵を産むのです。スーパーなどに並ぶ卵は、ほとんどがそうした無精卵なので、本来の卵を忘れないためにも有精卵にこだわります」
自然に近い状態を保つ姿は、採卵後の卵にも見られる。産みたての卵には、薄い膜がついている。菌などが卵の中に入るのを防ぐ役割をはたす膜(クチクラ層)だ。「流通する大半の卵は、その膜を洗い取っているんです。なんで、そういうことをするんでしょうね。うちは、卵を洗ったりせず、そのまま出荷しています」
こうした特徴のほか、話をうかがえば、これまで、田中さんがもっとも力を注いできたのは、飼料であるのがよくわかる。何しろ、鶏卵の品質や味がどういうものになるかは、餌しだい。それも、市販される配合飼料を使わないのだから、すべてを自分たちで調達し、用意していかねばならない。
「伝手を頼りに、生産者のところまで行き、自分で見て、これなら餌にしても大丈夫というものを揃えてきました」例えば、精米したあとの米ヌカ、豆腐を作ったあとのオカラ、醤油を絞ったあとのモロミ、ワカメの切り端など、従来は破棄されていたものを引き受けることで、定期的に入手できる道筋もつけていった。
今では、餌となる食材の供給もとは、全国各地に広がる(詳しくは、タナカファームのHPを参照)。田中さんは「これからは、有機栽培する生産者のところへ、うちの鶏の糞を提供するとか、自然なものを循環させていくことも考えてます」と話す。
実際に、「喜味の鶏子」をいただくと、黄身の色があまりにも淡い黄色なのに驚く。 これが自然な黄身の色なのだと実感。生で卵かけご飯にすると、味も見た目通り、あっさりし過ぎなくらい、やさしい味が広がる。それが、安心・安全という何よりも代え難いものに裏打ちされた、おいしさであると思うのだった。
[取材日:2012年2月28日]







喜味の鶏子(きみのとりこ)
- 取材協力
- 東果大阪株式会社 / http://www.toka-osaka.co.jp/
- 「喜味の鶏子」の購入や問い合わせは、下記のファックスあるいはHPで。
- タナカファーム
大阪府南河内郡河南町上河内110
FAX.0721-93-8513
http://www.tanaka-farm.jp/index.html
*ご利用される場合は、直接お取引ください。 - 参照
- ・「平飼い」「有精卵」など鶏卵についての表記については、公正取引委員会や業界団体で定められた表示規約をご参照ください。下記は、その参照先のひとつです。
社団法人日本養鶏協会
http://www.jpa.or.jp
[ 掲載日:2012年3月8日 ]