紅芯大根(こうしんだいこん)

冬の野菜の代表に根菜がある。例えば、ダイコンは年中出回っているが、旬は冬のこの時期。気温が下がると、土の中にある根の糖度は高まり、甘味が増してくる。
ダイコンは、日本各地で200種近くが栽培されている。今回紹介してもらったのは、中国野菜のひとつで、紅芯大根という。形はカブラのように丸く、中は紅色をしているのが、紅芯の名の由来。近年は、各地で栽培され、広く知られるようになった。
訪ねた生産者は、すずきファームの中井英人さん。畑は三重県伊賀市にある。奈良県、京都府、滋賀県と4つが接する県境にあって、すずきファームの畑は奈良県にも点在。計4haで野菜を約30種作る。そのすべてが有機農法で育てられている。
紅芯大根の畑に案内されると、露地全体に葉がしおれていた。「11月に霜がおりると、ダイコンの葉も、周りの雑草も、枯れていくんです」と、中井さん。でも、土の中では“大きな根”がしっかり育っていた。近づくと、丸い頭を見せている。
「(伊賀市の)この辺りは盆地で、冬は底冷えするほど寒いですから、糖度は高いですよ」と、土から紅芯大根を抜き、切り分けてくれた。断面は、紅の色艶も鮮やかで、瑞々しい。ダイコンは、葉が育ち過ぎると根に巣が入るから、収穫前に葉が自然と落ちてくれるのは、水気を保ち糖度も高めるのに理想的なようだ。
かじると、シャキっとした歯応えがある。ダイコン特有の辛味はなく、確かに甘い。「紅芯大根は、生食向きですね。サラダ、漬物、それに酢の物などでおいしく食べていただけます。和食以外の料理にも使ってもらえますよ」と、中井さん。
加熱すると変色するので、紅色を残したいときは、酢水にさらしてから調理するとよいらしい。新聞紙でくるみ、冷蔵庫に保存しておけば、長持ちするとのこと。
「次に、天日干しにしているのを見に行きましょう」といわれ、移動した場所は、生産者と消費者が集う「みな会館」と呼ばれる集会場だった。NPO法人「使い捨て時代を考える会」の運営する「安全農産供給センター」が、会員用に設けた施設だ。
中井さんは、京都の精華大学で学んでいるとき、農業の実習を受けたり、同じ京都で活動していた「使い捨て時代を考える会」を知り、農業に興味をもつ。そして、同会の研修を受けるなど農産物を育てることを学ぶなかで、有機農法を習得していったという。1999年には、友人と現・すずきファームを立ち上げ、現在に至る。
使い捨て時代を考える会は、来年で発足40周年を迎える。現在、会員数は約3千名。安全農産供給センターは、同会が母体になり、会員の出資によって設立された会社で、安全な食材(有機農産物、国産無添加食品など)の共同購入事業を行っている。伊賀市には、同会が所有し、地元生産者と消費者会員が有機農業に取り組む「この指とまれ農場」もある。中井さんは、こうした活動とも関わりながら農業を営む。
訪れた日は日曜日で、「みな会館」には親子連れの会員さんが多く見られた。子どもたちが、切り干し用にカットしたダイコンの端を網に並べたりしている。紅芯大根も天日干しにすると、ドライフルーツのようになって、一段と甘さが増していた。
同じ場所では、丸太を組んで工事している大人たちの姿もあった。「会員で鶏を育てるための鶏舎を建てています」鶏は、卵を生んだり、食用になるばかりではない。糞は、肥料にもなる。すずきファームでも、鶏糞は自家製のぼかし肥(米ぬか、魚粉、油かすなども入る)に使用。自然のなかでの循環が、有機農法の特徴でもある。
先に見た紅芯大根の畑では、夏にあえて牧草を生やし、それを枯れさせ肥料にする「緑肥」も行なわれていた。中井さんは、農業を始めるときから農薬は使ったことがないという。こうした生産者や、背後にある組織や運動の存在と広がりを知り、けっして大げさでなく、農業の可能性というようなことを垣間見させてもらった。
[取材日:2012年1月29日]





紅芯大根(こうしんだいこん)
- 取材協力
- 兵庫県芦屋市で自然農法・有機農法の無農薬野菜を販売する「CA(シーエー)」
http://www.ovca.jp/ - 紅芯大根の購入や問い合わせ先
- すずきファーム/奈良市月ヶ瀬石打874-2
TEL(FAX兼用):0743-92-0592
中井英人さんの携帯電話:090-4119-2461 - 参照
- ・中井英人さんのブログ
http://konoyubi.blog12.fc2.com/blog-entry-47.html - ・NPO法人「使い捨て時代を考える会」
http://www.tukaisutejidai.com/ - ・株式会社安全農産供給センター
http://www.anzennousan.com
[ 掲載日:2012年2月3日 ]