泉州水ナス

生産者:山出 繁行さん
大阪府貝塚市

ナスは、インド原産だから、同じ温帯気候の日本各地へ伝播し、今では地域ごとに個性ある多様な品種が栽培されている。ただし、その多くに共通するのは、アク(灰汁)が強く、生食にはむいていないこと。

ところが、日本で唯一ともいえる、生で食べられるナスがある。水ナスの品種で、ほとんどは大阪・泉州地域において栽培されている。

水ナスには、馬場ナス、澤ナスといった品種があり、江戸時代初期から泉州地域で作られていたという。現在は、それら原種も含め、後代に改良の進んだ品種と合わせ、泉州地域で採れる水ナスを「泉州水ナス」と呼ぶ。近年は、地域団体商標(いわゆる地域ブランド品)にも登録されている。

泉州水ナス(の実)は、丸みのある巾着形で、皮が薄く、果肉は水分を多量に含んでジューシーなのが特徴。アク(灰汁)が少なく、その分、生で味わうことができる。
意外に甘味がありフルーティと、水ナスを生で使う料理人も増えている。

地元では、そうした特性を生かし、早くから加工にも力を入れてきた。なかでも、糠床に漬け込んだ“浅漬け”などが評判になるとともに、泉州水ナスの名は広く知られていくことになる。ちなみに「水ナス漬」は、大阪府Eマーク食品に指定された、大阪の特産品である。

大阪府貝塚市で農業を営む山出繁行さんは、泉州水ナスを主に栽培する農家のひとり。農大卒業後、家業を引き継いで7年目という、若手のホープだ。

山出家の水ナス専用の畑は約30アール(900坪)。すべてハウス栽培とのこと。「水ナスは、地域の取り組みに先んじて、30年ほど前、祖父の代から作っていました。今は、両親は両親なりの、僕は僕なりの方法で育ててます」と山出さん。

ご両親のハウスとは別棟になった山出さんのハウスを見せてもらう。ナスの葉は毛羽だっているから、やや紗のかかったような、くすんだ緑が室内に広がる。そのなかに、紫色の艶々した丸っこい実が生っている。

水ナスは、1月15日に定植、3月上旬から9月まで収穫できる。「幹から伸びた枝の付け根に出る脇芽を剪定し、調整するのです」。そうして、半年にわたって実の収穫をコントロールしていく。「この時期に採れるのは、とくに瑞々しい」という。

山出さんは地元の老舗食品加工会社(漬物屋)と契約し、収穫した水ナスを納めている。「浅漬けは1個まるごと漬けるので、実の大きさ、形、色、艶などの厳しい条件があって、クリアーできる秀品の率を上げていくのも大変ですよ」。

とは言え、山出さんは自分なりの栽培方法に手応えを感じている様子。「ハウスでは連作を避けられないですから、毎年の肥料設計が肝腎。今は、腐植した土(ピートモス)に牛糞を加えたり、有機肥料を多く使うようにしています」。

また、虫除けには、対象害虫の天敵となる虫を使用し、減農薬を進める。「スワルスキーカブリダニという、害虫を喰う虫をハウスに入れて、戦わせてます」と話す。

こうした試みには、自分で勉強することに加え、農家の後継者が集う「貝塚4Hクラブ」での情報交換も大いに役立っていると山出さん。同クラブは、FMラジオに出演したり、夜に直売イベントを仕掛けたり、従来の生産-流通の枠組みにとらわれることなく、視野を広げた活動も行なっている。

泉州水ナスは、伝承された作物をただ継承的に栽培するだけでなく、加工による商品化で安定した供給の道を開き、その価値を広めてきた。しかし、漬物では市場を広げていくのは限りがある。そこを、どういうように変えていくか、後継者を中心とした若い世代による新たな動きに注目が集まる。

[取材日:2011年6月3日]

水ナス専用ハウスのひとつ。210坪ある。室内温度は約27度。ナスは太陽の光を浴びて大きくなるため、日射が透過できる膜がおおっている。
成育の様子を見る山出さん。水ナスは、1本の苗で毎年平均60~70個収穫できるという。
色艶もよく育った水ナスの実。幹から伸びる枝も、どこで剪定するかがポイントとなる。葉は、実よりもアク(灰汁)が強く、食用にはならないらしい。

泉州水ナス

取材協力
東果大阪株式会社 / http://www.toka-osaka.co.jp/
野菜のアク(灰汁)については、本会主催のイベント「ベジタブル講座」(2011年2月6日開催)の対談(野菜料理の可能性について)をご参照ください。
http://www.food-culture.jp/event/regular/110206_06yasai_repo/report06.html
地域団体商標(いわゆる地域ブランド品)に関しては、以下のHPを参照
特許庁/地域団体商標登録
http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/torikumi/t_torikumi/t_dantai_syouhyou.htm
大阪府Eマーク食品(14品目が認定)に関しては、以下のHPを参照
水なす漬の認証基準
http://www.pref.osaka.jp/ryutai/emark/01kijun_mizunasu.html
その認証事業者(56社)
http://www.pref.osaka.jp/ryutai/emark/ichiran_mizunasu.html
泉州水ナスを使った料理のレシピは、以下のHPを参照
北野農園
http://www.kitanofarm.com/kf/recipe

[ 掲載日:2011年6月10日 ]