ハーブ

生産者:寺田 昌史さん
奈良県葛城市

奈良県でハーブ類を専門に栽培している農家を訪ねた。場所は、県の西北部、葛城山々の麓に広がる葛城市。生産者は、寺田農園を営む寺田昌史さん。ガラス温室でハーブの水耕栽培に取り組み、15年になる。

「平成5年、当初はネギを水耕栽培しようと考え、この温室を建てたんです」と寺田さん。ところが、ネギは露地もの、ハウスものと年中生産され、市場に数多く出回り、水耕栽培してもメリットはなかったという。

しかし、ガラス温室はオランダ製。ハウスと比べれば構造がしっかりした造作の建築物である。そこに水耕栽培用の装置を導入するなど、経営的にも大掛かりな転換をはかったのだから、ネギに替わる効率的な生産品が求められていた。

試行を重ねた結果、「1年を通し安定的に供給できれば、需要が見込めるって気づきました」。それが、ハーブだった。「取引先に、季節によっては他所で入荷できない品種が採れるなら、ほしいと言われ、本腰入れたんです」と寺田さん。

今では、以下の約7種のハーブが主力商品になっている。チャービル(セルフィーユ)、バジル、イタリアンパセリ、ローズマリー、タイム、ディル、ルッコラ。他に、オレガノ、ミントなど、多くの品種を手がける。これらが、水耕栽培では各品種それぞれ1年に4〜10回の収穫が可能という。

なかでも、通常の収穫期とは逆のもの「冬に採れるバジル、夏に採れるチャービル、イタリアンパセリなどが重宝されています」と寺田さん。5月はタイミングよく多品種の成育が重なり、寺田農園は収穫のピークを迎える。

ガラス温室に入ると、ハーブ特有の香りがいくつも重なって匂ってくる。当然のこと、背丈の低い葉ばかりで、室内は奥まで見渡せる。その密生した葉のひとつひとつを見れば、色艶もよく、良い状態で育っているのが感じられた。

水耕栽培は、本来なら畑の土中にあり植物が育つために必要な栄養素を化学的に補わなければならない。そういう意味で有機農法ではないけれど、除草剤はいらないし、温室内の防虫ネットなど対策を施すことで虫除けの農薬もいらない。

寺田さんも、管理さえ的確に行なわれれば、安心が確保できることを強調する。「農薬なしの上に、水は家庭と同じ上水道を使用。収穫後は新しい苗植えの都度、水槽を洗浄するなど衛生面にも配慮してます」。

「ハーブは、受精させ実をならせる訳でもなく、栽培は簡単と思われがちですが、とんでもない。室内でも天候の影響で発育は変わるし、毎回、苦労の連続ですよ」

こうして、水耕栽培に打ち込んでいくなか、ハーブ以外の種類を育ててみることもしばしば。「変わったもんを食べるのが好きだし、育てるのも好きなんで」という寺田さんが、近年とくに力を入れているのは、わさび菜の栽培。成育したのをちぎっていただくと、適度な辛味が口中に広がり、爽やかな印象を残す味わいだった。

現在のところ、ハーブの各品種は業務用として、年間まとまった量の取引があるという。それ以外の需要を開拓するため、寺田さんは家人とともに、料理人とのコラボなどハーブを広げる活動にも力を入れている。

「材料を厳選し、心を込めて作ったケーキの上に、寺田農園のハーブをのせて仕上げれば完璧。なんて言ってもらえたときは、うれしかったですね」

寺田さんは、生産者として需要ニーズには敏感でありたいと話す。加えて、ハーブのほかに栽培しているイチゴをジャムに加工したり、農園経営の多角化を目指す。
そうした積極的なひとだから、例えば、ハーブの葉ひとつずつの大きさや色など料理人の難しいオーダーにも、しっかり応えてくれるのではないか、と思うのだった。

[取材日:2011年5月2日]

建てられた18年前には、さぞや目立ったろうと思われるガラス温室。現在は隣に2棟目が建つ。
水耕栽培で成育しているのは、わさび菜。屋内の天井には防虫ネットが張り巡らされている。
寺田農園でハーブ類を育てるのは1500坪。チャービルの成育状態を見る寺田さん。
種から芽がでれば、水耕用のパネル(発砲スチロールに穴がある)に定植。成育したのと、これから育つのが並んでいるのが、多品種栽培らしい姿だ。
寺田農園はスタッフ10数名の所帯。収穫されたハーブは、手作業で出荷に備えられる。

ハーブ

取材協力
東果大阪株式会社 / http://www.toka-osaka.co.jp/
寺田農園のHP
http://www.teradafarm.com/

[ 掲載日:2011年5月11日 ]