紀州うすい

生産者:農家グループ「匠の里紀州」 川西 省吾さん、中本 憲明さん、假家 英明さん
和歌山県日高郡みなべ町

大阪から紀伊半島へ車を走らせ約2時間。もう少し行けば白浜という手前にある海沿いの町、和歌山県日高郡みなべ町に着く。南部(みなべ)地域は梅の生産で知られるが、今回は「紀州うすい」と呼ばれるエンドウを取材するために訪れた。

「紀州うすい」は、莢の中で育った実(エンドウ豆)を食すエンドウの代表的な品種ウスイエンドウの仲間。もとのウスイエンドウは、なにわの伝統野菜「碓井(うすい)えんどう」が各地に広がったもの。共通して、莢も実も薄い緑色で、形状はふっくら、実の糖度が高いなどの特徴がある。ほっこり甘いと、よく形容される。

和歌山県では、その「碓井えんどう」を原種にし、明治の頃より栽培に取り組んできた。成育したなかから優れたものを選別、それを種に育てることの代々繰り返し。今では、特徴の秀でたウスイエンドウが安定的に生産できるようになっている。

そうした歴史をもつ、和歌山=紀州産のウスイエンドウが「紀州うすい」である。生産量が増え、市場へ出回るにつれ、本家「碓井えんどう」よりも知名度は高くなったかもしれない。06年には地域団体商標(地域ブランド)の認定も受けている。

みなべ町に訪ねたのは、農家グループ「匠の里紀州」。減化学肥料、減農薬を掲げ、御坊市・印南町・みなべ町で農業を営む8農家が結集。互いに研鑽しながら活動して今年で3年目を迎える。当日は、会長の假家英明さん、副会長・渉外担当の川西省吾さん、事務局の中本憲明さん、3名にグループを代表して話をうかがった。

「紀州うすい」は、早生、露地、ハウスと続き、3月から11月くらいまで収穫できるという。しかし、「匠の里紀州」では、あくまでも露地栽培にこだわっているため、4月で出荷は終わってしまう。まさに、いまが旬なのである。

岬に広がるグループの畑には、枝もたわわに実った「紀州うすい」が収穫を待っていた。ひと株の背丈は約2m強、長いので70mはある畝が何列も並ぶ。成育した莢の密集度は高い。これからそれらを手でもいでいくと聞かされ、気が遠くなる思い。

「JAみなべいなみ担当地区だけでも、年間約2千t、約10億円の生産高です。和歌山県全体でみれば、紀州うすいは主要な生産物になっています」と假家さん。「栽培方法とか技術は、先代までにほぼ完成されているので、僕らは、もっと味をよくするとか、安心して食べてもらえるようにするとかに力を注いでいけるんです」。

3名とも、親の代で戦後に再度本格化された栽培を引き継いでいるとのこと。故に、グループでの専らの課題は、土壌を健康に保ち、化学肥料や農薬に頼ることなく、自然の力で自然においしくなるよう育てる方向になる。

種蒔きは10月中旬。毎年、それに備えて夏場2ヶ月の間に畑の土を太陽熱で蒸すという。「今は緑いっぱいですが、夏は土だけですから光景が一変しますよ。70から80度の温度で病害虫を駆除し、再びきれいな土質にすることで連作が可能になるんです」と中本さん。

そこに、玄米から作るとか独自に工夫した有機肥料を使うなど、改良が進む。もともと県をあげての栽培だから、「紀州うすい」は他の都道府県の基準よりも厳しい和歌山県の基準をクリアーした特別栽培農産物の認証を受けている(内容は下記アドレスのHPを参照)。

「黒潮暖流の海が近いし、日当りも良いので、成育が早いんです。有機肥料もよく食べてくれてます。水はけが良すぎるので、潅水には気をつけないといけませんが」と川西さん。近年は、「紀州うすい」をさらに大ぶりになるよう改良した新品種「紀の輝(きのかがやき)」にも取り組んでいるという。

「子供が、畑で莢ごとまるかじり、おいしいと食べるのを、うれしく思いながら見ていられる。それが、何よりですよ」と、もいでくれたのを口にしてみる。莢はツルツルで思いのほか柔らかい。実のエンドウ豆は、サツマイモに似た甘い味がした。

定番の豆ご飯以外におすすめの食べ方を訊いてみた。ひとつは、莢ごと焼く(炭火が理想)こと。枝豆のように、ほくほくの実をつまみ出して食べるとおいしいとか。焼けた莢もいけるらしい。それと、意外だったのは、実をとった後の莢で、だしを取るということ。エンドウ特有の糖分やアミノ酸が、莢にもまだ残っていて、それを使わない手はない、というのだった。

熟成された、なにわの伝統野菜「碓井えんどう」を忘れてはいけないけれど、ぴちぴちした「紀州うすい」の勢いというのを実感する、そんな取材になった。どちらも、それぞれに味のある食材なのは間違いないはず、ではある。

[2011年3月31日取材]

岬の畑。画面奥に海が見える(和歌山の海は穏やかだった)。紀州うすいの上を覆うのは防鳥ネット。
収穫を前にした、露地栽培で大きく育った紀州うすい。これをひとつずつ手でもいでいかねばならない。
普通の地面に似て、水はけのよさそうな畑の土。足下にはパイプが行き渡り、潅水システムは万全だ。
左のふたつが紀州うすい。右のふたつが紀の輝。莢が大きい分、実(エンドウ豆)が多くなることになる。
紀州うすいの実。見た目は、碓井えんどうとほとんど変わりない。やや、莢が薄い(柔らかい)感じ。

紀州うすい

取材協力
東果大阪株式会社 / http://www.toka-osaka.co.jp/
農家グループ「匠の里 紀州」については、以下のHPを参照
http://minabe.ocnk.net/page/9/
地域団体商標については、以下の特許庁のHPを参照
http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/torikumi/t_torikumi/t_dantai_syouhyou.htm
和歌山県特別栽培農産物については、以下の和歌山県のHPを参照
http://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/070300/071400/tokusai/index.html
「紀州うすい」の購入など問い合わせは、メールで以下の中本憲明さんのアドレスへ尋ねてください
E-mail:n-nakamoto@happy.email.ne.jp

[ 掲載日:2011年4月5日 ]