八尾若ごぼう

暦では春に入り、市場には春野菜が並び始めている。この時期、「八尾若ごぼう」という旬の牛蒡(ごぼう)があると聞き、生産地の大阪府八尾市恩智を訪ねた。
生産者の松村康正さんに案内されたハウスの畑には、長い茎の先に葉が付いた、フキに似た野菜がまさに青々となっていた。「八尾若ごぼうは、葉も食べられる」とのこと。品種は、葉ごぼうといい、若ごぼうは通称であるらしい。
「八尾で葉ごぼうを本格的に栽培するようになったのは、昭和の初期。根だけでなく、葉もおいしく食べてもらえるよう、先達が苦労し、栽培方法などを工夫して商品価値を高めていったのです」。松村さんが葉というのは、茎(軸)と葉を指す。
そうした努力の結果、八尾でできる葉ごぼうは評判になり、いつしか八尾若ごぼうと呼ばれるまでになった。今では、枝豆と並んで八尾の特産品になっている。
「枝豆の収穫が済み、9月20日頃に種まき。で、12月上旬、伸びた葉を一度刈り取ってしまいます。同じ株から新芽が出て、再び葉も伸び成長したのが今の状態なんです」と松村さん。それだけ手間をかけることで、ごぼう特有のえぐみは減じられ、ほのかな香りの付いた葉(茎と葉)になるという。
根から茎や葉まで、すべてが食用に使える。八尾若ごぼうは、食材を無駄にしない「始末」を心得とする大阪ならではの野菜といえるだろう。だからか、とくに大阪で馴染まれ、春を告げる野菜として親しまれてきたのだった。
ところが、「近年は、同じ大阪でも地元から遠くなるにつれ、葉ごぼうさえ知らない人が多くなり、販路は広まらないのです。調理のしかたも含め、どうしたら普及できるかが課題です」と松村さん。
実際に畑で掘り出してもらうと、根は15cmほど。茎と葉はその3倍はある。ごぼうといえば、根しか見たことのない者には、根は短いし、全体の姿形がごぼうとは別種の野菜に見えてしまう。
「ほのかな苦みがあり、しゃきっとした食感も味わえます。根は短くて柔らかいので下ごしらえに時間はかかりません。葉の軸は湯通しするだけで食べられます。加熱しても香りは残るし、などと幅広く使ってもらえるんですがね」と松村さん。
地元では、煮浸し、きんぴらや混ぜ御飯の具、塩昆布といっしょに佃煮にするなどがポピュラーなメニューという。サラダやパスタにもよく使われるとか。
そもそも、ごぼうは付いた土をきれいに洗いながし、灰汁抜きしたりと、料理に手間がかかると思われがちだ。近頃は、洗って売られているものもあるけれど、敬遠する主婦は多かろう。しかし、手はかからないというのも八尾ごぼうの特徴なのだ。
「根と葉の軸は、水にさらすだけ。葉は湯通しするだけ。それで、どんな調理でも可。手間を省こうと思われるなら、そのまま料理していただいてもかまいません」。
葉ごぼうは、けっこう繊細で、使える農薬は限られているとか。それでも、松村さんが属する「八尾堆肥研究会」では、土壌を改良するなどして、農薬や化学肥料の使用量をおさえて栽培。八尾若ごぼうは「大阪エコ農産物」の認証を得ている。
歴史を引き継ぎ、なお生産者の努力が積み重ねられている八尾若ごぼう。料理人の手によって、新たな料理が多様に生まれ、存在が広く知られることを期待したい。
[2011年1月27日取材]




八尾若ごぼう
- 取材協力
- 東果大阪株式会社 / http://www.toka-osaka.co.jp/
- 「八尾若ごぼう」が購入できる通販サイト「一品一会」(ご利用される場合は下記サイトと直接お取引ください)
- http://item.rakuten.co.jp/1pin1e/10000076/
- 大阪エコ農産物認証制度の案内
- http://www.pref.osaka.lg.jp/nosei/syokunoanzen/ekonousanbutsu.html
[ 掲載日:2011年2月7日 ]