パッションフルーツ

生産者(農園設計):堀本 宗清さん
兵庫県加古川市東神吉町

南国の果物・パッションフルーツが兵庫県加古川市で穫れると聞いて、生産地へ向かった。温暖な地域にしかできないのでは、と思うのは早計。市場関係者によれば、近年は日本の各地でパッションフルーツが栽培されているらしい。加古川産は、それら他地域のと比べても優劣を付けがたいほど美味だという。

訪問先は加古川市上荘町、加古川河岸に広がる農作地の一角。農業実験場のようなところで、まずは話をうかがう。生産者の堀本宗清さんは、ここを拠点に、独自の哲学に基づく農業の実践と開発技術の普及に努める。その成果のひとつとしてパッションフルーツ栽培があるのだった。

堀本さんは、2008年に兵庫県立農林水産技術総合センターを退職。それまで培った知識や経験を生かすことで「将来を見据え、地域にあった品種の選定、相応しい栽培方法の提案などトータルに実施できる農園設計に取り組んでいきたい」と話す。「試験や研究より、もっと実情に応じた活動を目指し」独立し、今の仕事を始めた。

現在、堀本さんが力を入れているのは、大型の廃タイヤを利用したプランター栽培。前の勤務地(センター)で手がけてから足かけ10年にわたって試行を重ね、独立後にようやく商品化された。直径1mの廃タイヤ2本を重ねて筒状のプランターにするのだが、繋ぐ器具、底材なども標準装備されている。

同時に、タイヤプランター栽培に適した土(水はけがよくて保水力もある浄水ケーキ)の入手経路も確保。土を入れると500kgになる。ぬかるんだ田畑でも移動しやすいようフォークリフトには特製キャタピラーを装着。また、太陽電池でポンプが作動する「点滴型潅水装置」も開発するなど、周辺技術も広がりをみせる。

「直径1mだから面積は約0.8m²。プランターは小さな畑なんです。一つひとつ別のものを育てることができる」と堀本さん。容器と装置で、土に植え水をやりながら育てるから「半施設栽培」ともいう。利用の仕方も移動も自由自在。堀本さんは、タイヤプランターを活用した農業を「フレキシブル農園」と呼ぶ。

「精確な知識と鋭い観察力があれば農薬を少なくさせられる。地面からタイヤ2本分高くなり目線に近づいた“小さな畑”を見れば、育てる作物への愛着もより強くなっていきますよ。ミニマムでもベストを尽くすこと」と堀本さん。

加古川河岸の拠点をあらためて眺めれば、並んだタイヤプランターに様々な植物が栽培されていた。米、野菜、果樹、花木など約60種。「園芸作物といっていい内容をカバーしつつ実作してます」。テントを付けたり、水槽にしたり、スイカをぶら下げたり、まさにフレキシブルな展開だ。

そうしたなかから、堀本さんが将来有望と選んだのがパッションフルーツ。「苗を植えて1年以内に収穫でき、収益性も高い。ハウスで温度調整と潅水を管理し、愛情をもって育てれば大きく応えてくれる。挑戦しがいのある作物ですから」。

兄の良平さんが営む堀本農園で昨年から栽培を開始。2アールのハウスにタイヤプランターを並べ、3種(ルビースター、サマークィーン、ジャンボ)のパッションフルーツを苗から育てた。「最初のは11月頃に収穫できました。年2作ですから、次はこの夏です」。第一回目の収穫から地元のデパートなどで販売されて、早くも注目を集める。

「パッションフルーツは追熟すると甘みが増すんです」。堀本さんが取っておいてくれたのをいただいた。皮にしわが出ているものほど熟しておいしいとのこと。ナイフで切り割り、スプーンで種のついたゼリー状の果肉をすくいながら食す。甘い香りの果汁はおいしく、種のツブツブした食感も楽しい。

「個性ある味をもっと知ってもらい、定着させていくのはこれから。地元の名産品として育てていきたいですね」と、栽培に自信をのぞかせる堀本さん。

パッションフルーツは、世界ではほとんどが香り付けやジュースなどの加工用に消費されているというが、生食の他、洋菓子やサラダ、ドレッシングやカクテルなど使い道は幅広くありそうだ。加古川産のパッションフルーツがどのように受け入れられ広がっていくか、まさに走りの果物として注目したい。

[2010年7月29日取材]

堀本農園にあるパッションフルーツのハウス。日照を受けるのを調節する膜の張り方などハウスの設計は堀本さん。
2アールのハウスには60個のタイヤプランターが並ぶ。1プランターに1本の苗。今は4mくらいまで蔓が伸びている。
パッションフルーツは熟すと自然に落下するという。苗木の根元くらいの高さに張った網に落ちた実を拾い集める。
堀本さんの拠点である「フレキシブル農園」の全体。コンテナが事務所。廃タイヤが集められ、炎天のもとで栽培実験が行なわれている。
タイヤプランターの一つひとつを見ると様々な種類があり、興味は尽きない。巨大なナタ豆なんかも育っていた。

パッションフルーツ

取材協力
東果大阪株式会社 / http://www.toka-osaka.co.jp/
堀本農園のパッションフルーツが購入できる通販サイトの紹介
(ご利用される場合は下記サイトと直接お取り引きください)
一品一会(いっぴんいちえ)
https://www.rakuten.co.jp/1pin1e/

[ 掲載日:2010年8月5日 ]