フルーツトマト朱雀姫(すざくひめ)

生産者:東口 義巳さん・晴一さん
奈良県大和郡山市

夏の定番野菜トマトは、日本で栽培されている野菜のなかでも群を抜くほど多くの品種改良が行なわれ、今では1年を通じ多様な品種が市場に出回るようになっている。通年で出荷される生食用の70%がハウスなどの施設栽培ものという。

それだけ需要が多いのには理由がある。なにしろトマトはおいしく食べやすい。その上、ビタミンC、βカロチンを多く含むなど栄養価が高い。さらに、旨み成分グルタミン酸も多いことが注目され、ジャンルを問わず様々な料理に使われている。

加えて、近年は栽培の過程で糖度を高めた甘みの強い通称フルーツトマトが作られ、人気を集める。これまでのトマトの平均糖度が4〜6度なのに比べ、フルーツトマトは8〜10度になるという。

今回は、この高糖度化と施設栽培を組み合わせたトマト栽培の最前線を訪ねた。生産地は奈良県大和郡山市。生産者の東口義巳さんと晴一さんの親子に案内されたハウスは、2009年に完成したばかり。「1年が経過し、ようやく思い通りの軌道にのったところ」というが、見慣れた温室ハウスをはるかに超えた規模と内容だった。

ハウスは鉄骨組み、微細な編み目の被膜フィルムが何層も重なり覆われている。頑丈な造りでドームを思わせる。出入口の引き戸を開けると、涼風が外に向かって強く吹き、外気の暑さをしのぐ勢いだ。「中の要所に設置した換気扇で空気を循環させ、ハウス内の環境をクリーンに保っています。風をおこせば虫除けにもなりますし」と義巳さん。夏場でも室内温度は25度前後というから、外にいるより涼しい。

中で行なわれているのは水耕栽培。東口さんのところでは、根を浸透性の高い石綿で「やさしく包むように」覆い、パイプに流される水に浸しながら栽培している。水やそこに加える養液を調節しながらトマトを育てる。

もともとトマトの栽培では水やり(潅水:かんすい)が重要になる。たとえば、実が熟しかけると与える水の量を少なくすることで糖度を高められる。いわば実が濃縮するように育てるのだ。「潅水をいかにコントロールするかがトマト栽培のポイント。そういう意味で、水耕栽培は理に適っているのです」と義巳さん。

ハウス内の床は保護シートが敷かれており、まさに土がない畑。メインハウスではトマトの苗が植えられた列(通称ベッド)は長さが53mもある。茎が伸び葉が茂るベッドがいく列も並ぶ様子は壮観で、ドーム農場と呼びたくなる。「トマトは一代限りですから、年に13、4回植え替え1年を通じ安定して育て年9作が目標」という。

かように最新設備を導入しシステマティックにトマトを栽培できるのは、義巳さんが長年にわたって培ってきた野菜作りの成果があるからだ。自家製有機肥料の開発、農薬の代わりになる弱電解水での散水、農薬を使わずに虫を駆除できる静電噴霧など減農薬栽培に取り組んできた。義巳さんは、そうして収穫した農作物を「大和撫子(やまとなでしこ)野菜」と名付けている。

ドーム農場の水耕栽培トマトにも減農薬栽培の技が組み合わされている。今はミニトマトから大玉の丸トマトまで同時に5種類を栽培。だから総称は「大和撫子トマト」になる。そのなかでも「主力は、糖度10度を目指し高糖度に育てたフルーツトマト」という、名付けて「朱雀姫」。

息子の晴一さんに「うちで作るのは、もいでそのまま食べてもらっても安全」と言われ、熟した「朱雀姫」を食べてみた。一齧りでフルーティな甘みが口の中に広がっていく。そして瑞々しい甘さの後にようやく酸味を感じる。これまでのトマトとは明らかに違う味わいだ。

大規模な施設のなかで東口親子が一つひとつ手をかけ大事に育てる「大和撫子トマト」、なかでも高糖度のフルーツトマト「朱雀姫」は今がまさに走り。本格的に市場に出荷されるこの夏、大いに注目されたし。

[2010年7月1日取材]

東口ドーム農場の全容は2500h。畑のなかに数棟まとまって建つドーム状のハウスは周辺のハウスに比べても大きく目立つ。
1作で約5000本の苗が植えられる。ハウス内でトマトの生育を確かめる東口義巳さん。
水路の上から苗が育っていくベッドの列。生育するにしたがい茎が伸びるたびに実のトマトは数回収穫できる。
収穫したばかりの「朱雀姫」。

フルーツトマト朱雀姫

取材協力
東果大阪株式会社 / http://www.toka-osaka.co.jp/
参照
・農林水産省の農産物品種登録によれば、2010年現在でトマトの登録件数は154品種ある。だいこん37品種、キャベツ25品種、たまねぎ38品種と比べてもトマトがダントツで多いのがわかる。ちなみにイチゴは200品種だった。フルーツトマトは品種名ではなく、あくまでも通称。
・トマトをはじめ農作物の栄養成分については、文部科学省の食品成分データベースで検索できる。
・糖度とは、果汁100gの中に含まれる糖分が何gあるかを表すもの。本来の単位は%だが、*度の表記で通用されている。ちなみにイチゴは12〜15度とされる。
「朱雀姫」が購入できる通販サイトの紹介(ご利用される場合は下記サイトと直接お取り引きください)
一品一会(いっぴんいちえ)
https://www.rakuten.co.jp/1pin1e/
東口さんの農場「とぐちファーム」のHP
http://www.toguchi-farm.com/index.html

[ 掲載日:2010年7月8日 ]