厳しい寒さが育む、
ほうれん草の常識を超えたほうれん草。
「大和寒熟ほうれん草」

生産者:JAならけん 中森 正浩さん(左)
曽爾村ほうれん草部会 幹事 大向 正憲さん(右)
奈良県宇陀郡

厳寒の季節のみ味わえるごちそう野菜

冬を迎えて美味しさを増す野菜は色々あるが、今回はほうれん草を取り上げたい。現在は品種改良や栽培技術によって一年中出荷されている印象だが、12月末~2月中旬までしか収穫できず、一般的なほうれん草に比べて2倍も糖度が高い品種があるという。それが「大和寒熟ほうれん草」だ。それほどの甘さの秘密はどこにあるのか?産地である奈良県の曽爾村で、JAならけんの中森さんと曽爾村ほうれん草部会の大向さんにお話を伺った。
大和寒熟ほうれん草は、約17年前から栽培がスタート。数多あるほうれん草から最も糖度が上がりやすい品種を探し出し、栽培技術や環境との相性を見極めながらの品種選定に最も苦労したという。現在は、寒くても素直に育つ「弁天丸」と、色が濃くボリュームに優れる「スーパーヴィジョン」が大和寒熟ほうれん草の品種として指定されている。季節や気候によって使い分けるそうだ。

決められた栽培方法に沿って品質を確保

決まっているのは品種だけではない。
ブランドの信頼を高めるため、生産者は登録制を採用し、栽培方法も統一されているという。
ほうれん草は低温になると体が凍らないように糖分を分泌するため甘くなるのだが、冷やせば良いというものではない。直接根元に冷風を当たると、葉先が白く焼けてしまうこともあるそうだ。
重要なのは、ほうれん草の中間辺りにのみ冷気を流すことだという。そのため栽培方法にも、ハウスのサイド部分は、下部と上部を閉じ、中間部のみを開放するよう決められている。また、外気温や成長時期に合わせて適切に開閉具合を調節する必要もあり、かなり気を遣う作業になるようだ。
栽培環境の整備でもうひとつ欠かせない要素に、水の管理が挙げられる。
水やりは必ず午前中にまでに済ませ、葉を乾かさなければならない。もしも夕方に葉が湿っていたら、黄色い斑点ができる「ベト病」のリスクが跳ね上がるからだ。罹ると一晩で全滅の恐れもあるか。加えて、土壌に水分が多過ぎると糖度が乗りにくくなるため、出荷規格の25cmになると水はほとんど与えないのが原則だ。水分管理も想像以上に重要な意味を持っていることが分かる。

県の基準を超える糖度が基準

さて、最大の魅力である糖度だが、一体どれほど甘いのか?
「曽爾村では糖度8度以上なければ、寒塾ほうれん草として出荷しません。県の基準は7度ですが、7.1と7.9では全然違いますから。ちなみに高いものでは10度以上もありますよ」
中森さんと大向さんの言葉に力がこもる。
10度といえばイチゴの平均的な糖度だ。いかに甘いかが分かるだろう。
「初めて食べると、いわゆるほうれん草と違うから、びっくりしますよ」と中森さん。大向さんは、サラダでも食べられると教えてくれた。「ほうれん草を生で?」と思うかもしれないが、甘さだけではなく、えぐみの元になる成分「硝酸イオン」も少ないそうだ。

曽爾村だけが生産を継続

高度約500mに位置する曽爾村が環境に恵まれているのは分かるが、奈良県の他の地域では作っていないのだろうか。
「近隣の地域も以前は栽培していましたが辞めました。普通のほうれん草は約2ヶ月で収穫できますが、寒塾ほうれん草は糖度を高めるため、ひと月ほど多く時間がかかります。また、糖度が乗らないものも2割ほど出てしまうため歩留まりが悪く、手を引く人が多いのです」と中森さん。
曽爾村でも、40年前は60人もいた部会員が22名になり、その内、寒熟ほうれん草の生産者は、わずか10人にまで減少している。それでもファンの声に応えるため生産を続けてくれているのだ。
季節はいよいよ旬の真っただ中。
県内の小売店のほか、曽爾村の公式HP内にある「そにのわマルシェ(https://soninowa-marche.shop-pro.jp/)」からも購入可能だ。
絶品の甘みを、大向さんイチオシのしゃぶしゃぶで楽しんでみたい。

[取材日:2025年12月3日]

ハウスの中で温度を徹底管理
気候に合わせて、ハウスの側面を開閉して温度を管理。冬とはいえ日差しがあればハウスの中は暖かくなるため、こまめな調節が欠かせない。長年の経験が光る作業だ。
パッケージでも一般ほうれん草と差別化
大和寒塾ほうれん草は、登録商標入りのパッケージで出荷される。卸先は公設市場のほか、県内外のレストランとも直接取り引きがある。
糖度は8度以上が基準
出荷前には必ず糖度を測定。育成具合は土壌の水分や日陰のでき方などによって違ってくるため、すべてに糖度が乗るとは限らない。大和寒塾ほうれん草として出せるのは、およそ7~8割だ。
一番おいしい食べ方はしゃぶしゃぶ
しゃぶしゃぶは普通、野菜が副菜で肉がメイン。ところが、この場合は主役が逆転する。豚肉は出汁のために入れる脇役でしかない。ほうれん草が、表舞台を堂々と仕切るのだ。
暑さが酷い真夏は、消毒しながら畑も休息
作業が厳しい真夏は、雑草や病気を予防するために土を消毒する期間に当てる。ハウスを密閉して土に水を入れ、ビニールシートをかぶせると温度は約100度まで上昇。雑草の種や病原菌はすべて死滅するのだ。農薬を使うことなく、土壌の休息と消毒が叶う。
収穫から出荷まで低温を厳守
栽培後はすぐに下葉や根を処理し、袋詰めされて保冷庫で保存。そのまま保冷車で運送されるため、常に冷えた環境を維持したまま出荷される。寒冷な環境が保たれなければ品質が落ちるため、細心の注意を払う。

厳しい寒さが育む、ほうれん草の常識を超えたほうれん草。「大和寒熟ほうれん草」

取材協力
JAならけん宇陀営農経済センター東宇陀営農経済
奈良県宇陀郡曽爾村今井427
tel:0745-94-2013 fax:0745-94-2077
事業内容:営農指導、販売、購買、ライスセンター・育苗センターの利用事業。

[ 掲載日:2026年1月20日 ]