馬路でしか育たない。
宝石と例えられる極上小豆。
「馬路大納言」

生産者:馬路大納言活性化委員会 畑 博さん
京都府亀岡市

日本屈指の大納言小豆

畑の肉といえば大豆だが、畑の宝石と呼ばれる小豆をご存じだろうか。それが、亀岡市馬路町で栽培されている「馬路大納言」だ。「大納言」とは、粒が大きい高級な小豆の名称だが、馬路大納言はその中でも群を抜く。平安時代には、馬路の豪族が上洛する際に、宮中へ献上されていたとも伝えられているとか。現代においても、ある和菓子職人は日本一の小豆と称賛したというから、いかに優れているかが伺える。そんな宝石を求めて、馬路大納言活性化委員会会長の畑さんの農園へ向かった。

馬路だけにしか実らない希少な一粒

亀岡地域は「丹波大納言」でも知られるが、何が違うのだろう。
「まず形ですが、楕円ではなく俵型をしていて、一般的な大納言より粒がさらに大きく、光沢も鮮やかで深い紅色をしています。馬路大納言の大きな特徴である風味や香りが上品な小豆です」と畑さん。
俵型で大きいため縦に3段ほど詰めるとか。普通の小豆ではとても無理な話だ。
これほど良質な小豆が育つ秘訣はどこにあるのか。当然、丹精込めた栽培の賜物なのだろうが、馬路独特の環境にもその理由が隠れているようだ。
農作物全般に言われるが、昼夜の温度差が大きい程、旨味・甘みが増していくのは小豆も同じ。愛宕山の麓に抱かれた馬路は、盆地特有の寒暖差が良質な小豆をじっくり育てる。また、粘土質の土壌と、石灰質を含む硬質の伏流水に恵まれていることもポイントのようだ。一説には、馬路大納言の種をほかの地域に撒いても、思うように実らないという話があるという。
「最初は馬路大納言が採れますが、1~2年で小粒になってしまうのです。継続して育てることは難しいと聞いたことがあります」。
さまざまな要因が絶妙なバランスを取ることで、しっかり根の張る大きな株に育つのだ。

一莢ずつ。一粒ずつ。良い物だけを選別。

恵まれた風土と両輪となって馬路大納言を育むのが、手間暇を惜しまない栽培だ。
7月末に始まる種まきから、作業はほぼ手作業。実が大きく育つ8月は草引きに心を砕き、10月下旬に収穫時期を迎えると、さらに苦労の連続だという。
収穫といっても、単純に全部摘み取ればいいというものではない。一莢ずつ成長を確かめながら、熟したものから順番に手で収穫する「さやぼり」と呼ばれる方法で行う。さらに収穫後は、出荷できる品質か一粒一粒全部チェックして選別。虫食いがあるものなどを確実に省いていく。一体何万粒あるのか。想像を絶する仕事量だ。
こうした努力の積み重ねが、宝石と称される馬路大納言をつくるのだ。
「他の野菜に比べ肥料は余りいらないので、そういう意味では育てやすいのかもしれませんが、病害虫に弱いので防除には気を使います。後は気候との戦いですね。去年は雨が降らず高温が続いたせいで全くダメでした」
最近は猛暑のせいで悪影響が出ていると悩む。

馬路大納言の後継者不足を危惧

気候のほかに、もうひとつ。生産量に直接響くのが生産者の減少だ。
「以前は70人くらい作っていましたけど、高齢化でやめてしまった。今は10人ほどしか育てていません」。畑さんは後継者不足を危惧する。
馬路町は畑が多い印象だが、ほかの農家が、「うちも育ててみようかな」という話にならないのだろうか。
「ならないですね。収益が作業に見合わないので」と笑う。
それでも畑さんが続けるのは、喜んでくれる人がいるから。ごく稀にだが、消費者から「おいしかった」という電話があるという。馬路大納言を使った和菓子を食べたのだろうが、普通なら和菓子屋に感謝を言いそうなものだ。それを生産者に連絡をくれるのだから、よほど感動したのだろう。
これほどの小豆を絶滅させてしまうのは、なんとももったいない話だ。
馬路大納言活性化委員会の活躍に、心から期待したい。

[取材日:2025年10月8日]

生産量が限られる希少な一粒
畑さんは約2000㎡の土地に200~300㎏分の馬路大納言を育てる。生産者の減少とともに、この地域でしか栽培できないため生産量は極端に少なく、イベントなど特別な機会にしか味わえないのが残念だ。
時期によって異なる多彩な表情も魅力の一つ
馬路大納言は、小豆の中でも最も収穫時期が遅い晩成型。京都が祇園祭に沸く頃に種をまくと、 9月には黄色い花が開き、やがてまぶしい緑の莢が膨らむ。そして10月下旬に茶色く熟し、収穫の時を迎える。
収穫は一莢ずつ手作業で
一莢ごとに成長を確認しながらの収穫は、かなりの重労働になるそうだ。「手も痛いけど、足も腰も痛い(笑)」と、畑さん。冗談交じりの口調ではあるが、隠しきれない苦労が滲み出る。
丁寧な乾燥も品質を支える大切な工程
栽培後は2~3週間かけて乾燥させ、艶やかで大粒な馬路大納言に仕上げる。また水分を抜くことで、2年以上も保管できるという。
他と比べても粒が大きく、鮮やかな色が特徴
馬路大納言は、他の大納言と比べてトップレベルだと評価されている。馬路大納言(左)と北海道産大納言(右)を比較しても、圧倒的に粒が大きく、色も深いことがわかる。

馬路でしか育たない。宝石と例えられる極上小豆。「馬路大納言」

取材協力
馬路大納言活性化委員会
京都府亀岡市馬路町万年43-1
tel:0771-55-9201
事業内容:「馬路大納言」の栽培および販売。

[ 掲載日:2025年11月20日 ]