ビールメーカーが挑戦する、
京都府初の循環型ブランド和牛。
「京の肉~琥珀和牛~」

環境保全と地域創生をめざして、京都府と地域商社がタッグ
関西各地に道の駅は数々あるが、食に関心の高い我々としては見逃がすことができないのが「丹後王国食のみやこ」ではないだろうか。関西最大級の広さを誇り、敷地内にはオリジナルビールや丹後地方の食材を使った料理などが揃う。この施設を拠点に、地域商社事業を行っているのが丹後王国ブルワリーだ。自家製クラフトビールの製造などを手掛けている企業だが、2024年11月に新しいブランド牛を発売したことでも話題になっている。なぜ畑違いの畜産業に進出したのだろうか。代表の中川さんを訪ねた。
「ビールを作ると、ビール粕が出てきます。畑の堆肥用に循環させていましたが、処理しきれなくなってきました。どうしようかと悩んでいる時、牛の餌にできるという話を聞いたのです」と、経緯を教えてくれた。
そんな折、ちょうど全農京都もSDGsの取り組みを推進する動きがあったという。早速、ビール粕を飼料として活用できないかと相談したところ、お互いの目標が一致。京都府が運営する碇高原牧場で、肥育牛へのビール粕給与が試験的にはじまった。
せっかくビール粕で育てる個性的な牛だ。そのまま販売するののではなく、SDGsや地域創生にもつながるようブランド牛として展開することを決め、ビールの色から「京の肉~琥珀和牛~」と命名した。
琥珀和牛は、京都府初の「循環型ブランド和牛」としても注目を集める。これはビール粕を循環するという意味のみに留まらない。再利用できる原料を販売するだけならよくある話だ。しかし丹後王国ブルワリーは、飼料を提供しながら牛を育て、商品として手元に戻し、販売まで行う。このサイクルこそが、他にはない大きな特徴なのだ。
発育も味も向上。ビール粕が、牛にとって絶好の餌に
牛にとってビール粕は嗜好性が高く、食物繊維も豊富でアミノ酸バランスも良いという。食欲を促進して大きく育てられるのはもちろん、シェフからも「赤身に甘味感がある」「脂身がすっきりしている」「赤身も柔らかい」と味についても折り紙が付く。
いわゆる牛肉のランクを表す枝肉格付でも、これまで出した琥珀和牛はすべてA5ランクの好成績を収めている。
優れた肉質に育てるには、繊細な飼育管理が必要であり、ランクはそのまま技術の評価につながる。牛を肥育する上でも、最もやりがいを感じる瞬間でもあるそうだ。
琥珀和牛を通して、京都府全体の畜産業を盛り上げたい
話題性も品質も申し分ないが、まだ誕生したばかりとあって、認知拡大が今後の課題だ。「国内外のホテルやレストランへの販売拡大をめざしています」と中川さんは意気込む。ただし、循環型で作る琥珀和牛は、3頭ずつしか育てられないという。
今後人気が高まるのは容易に想像がつく。需要が増加した場合はどうするのだろうか?
「琥珀和牛を生産する農家を増やすことも視野に入れています。そのためにも色んなレストランに使っていただき、価値を高めることが最優先です」。
ここで疑問が浮かんだ。せっかく苦労して開発したノウハウを簡単に教えていいのだろうか?意外な答えが返ってきた。
知識や育成法を、独占するつもりはまったくないという。
「琥珀和牛をつくりたい農家がいたら、喜んでビール粕を提供します」。
さらに、飼料作りの技術も公開すると続けた。
碇高原牧場の種子田場長もうなずく。「ビール粕飼料の作り方は当場が指導します。碇高原牧場は、こうしたスキルを提供する場所なんです」。
碇高原牧場も丹後王国ブルワリーも、自社の利益のみを追求したいのではない。地域の畜産業界全体を発展させ、食品残渣問題にも貢献していくことをめざしているのだ。
今後は、より多くの人が気軽に味わえるよう計画を進行中
今は自社が道の駅内で運営する「ホテル丹後王国」のレストランなど、限られた場所でしか味わうことができないが、近々自社サイトでネット販売も再開予定という。また琥珀和牛を使った、しぐれ煮などの加工品も開発中だとか。気軽に琥珀和牛を楽しめる日が、待ち遠しくてしょうがない。
[取材日:2025年6月17日]


ビール粕(左)と、完成した飼料(右)。年間を通して出るビール粕約40トンを全て使用する。

飼料は、ビール粕とふすま、糠、乳酸菌を専用の機械で混ぜ合わせて作る。最も気を遣うのが水分量だという。試行錯誤を繰り返し、碇高原牧場では60%をベストなバランスとして調整する。

ビール粕は牛の嗜好性が高いため飼料摂取量が増加し、十分に発育した良質な牛を育てることができる。

飼槽の掃除を徹底するなど清潔さにこだわる。特に床替えに気を配り、約1週間ごとという頻度で行う。これまで体調を大きく崩すようなトラブルもほとんどなく、クリーンな環境が健康な発育に欠かせないことがわかる。


道の駅丹後王国内にある「丹後王国ホテル」のレストランでは、琥珀和牛とオリジナルビールをセットで楽しめる。「一緒に味わうことで、より循環型の意味を実感できると思います。環境への取り組みを、おいしさと一緒に伝えていきたいです」と中川さん。


旨味豊かな琥珀牛だが、中川さんがイチオシする食べ方は、シンプルな焼き肉。素材本来のおいしさが際立つ食材だけに、あれこれ手を入れるより、ありのままの味を大切にした調理法が最も魅力を引き出すのだろう。
ビールメーカーが挑戦する、京都府初の循環型ブランド和牛。「京の肉~琥珀和牛~」
- 取材協力
- 丹後王国ブルワリー
- 京都府京丹後市弥栄町鳥取123
- tel:0772-65-4193 fax:0772-65-4194
- web:https://tango-kingdom.com/
- 事業内容:ブランド和牛「京の肉~琥珀和牛~」、クラフトビール、無添加ソーセージ等自家製品の製造・販売。丹後の農水産物や加工品の卸しおよび販売。ホテル丹後王国の運営など。
[ 掲載日:2025年7月22日 ]