田辺大根(たなべだいこん)の実

生産者:谷川 詔司さん
大阪府南河内郡河南町

「なにわの伝統野菜」のひとつ、田辺大根は太くて短い形で葉のほうが長い。その葉は葉裏に毛がないから食べられる。食材を無駄なく使い切ることが浸透する大阪ならではの野菜だ。加えて、実(いわゆる種)も旨いと、近年出荷に力を入れる生産者の谷川詔司さんを訪ねた。

谷川さんの畑は南河内郡河南町にある。河南町は早くから「なにわの伝統野菜」の栽培に取り組み、現在はその栽培面積が大阪府内で第一位とか。谷川さんも田辺大根のほか、鳥飼茄子(とりかいなす)、毛馬胡瓜(けまきゅうり)、玉造黒門越瓜(たまつくりくろもんしろうり)、勝間南瓜(こつまなんきん)、天王寺蕪(てんのうじかぶら)、碓井豌豆(うすいえんどう)を栽培している。

河南町は、大阪の南東、葛城山の西側にあたる丘陵地に位置する。谷川さんの畑に立つと、周囲はほとんどが畑作用の耕作地で、水田とは異なる風景が広がる。しかも、なだらかな高台にあって見晴らしがよく、高原を思わせる。「実際、大阪市内とは気温が4度ほど低く、さわやか。それに、丘陵なんで日当りよし。野菜もよう育つよ」と谷川さん。

伝統野菜は、種が原種であるのが基本。だから、毎年、収穫した後に種を取る。収穫期を過ぎても穫らずにおいた種取り用の田辺大根は茎が伸び放題。3月から4月頃に花が咲き、5月にかけて種の入った実がなる。その実を天日に干して中にある種を取り出し、秋になると蒔いて育てるという繰り返し。

ところが、数年前、種取り用の実を試しに食べてみたという谷川さん。「プリプリしてるんで、かじってみたら旨かった。実に入っているのは小さいけれどダイコンの種やから、辛味があって風味は独特。食材としてもおもしろいと思った」。

現在、谷川さんが栽培する田辺大根は約30アール。「見てのとおり、ほとんど雑草も生えっぱなし。そこにテントウ虫が来て、アリマキ(アブラムシ)など害虫を食べてくれるから、農薬いらずですわ」と話す。「生でも安心して食べてもらえるから、生食がおすすめ。サラダに使ってもらえば、あうと思いますよ」。

谷川さんは、JAの組合では要職を務め、地域の農家のリーダーでもある。そのため日頃から地元産の売り込みを行ない、流通業者や料理人との付き合いも広い。機会がある度に田辺大根の実がいけると話しているうち、扱ってくれるところが増えつつあるのだという。

河南町にある「道の駅かなん」は、農産物直売所として注目を集める「道の駅」のなかでも人気の高い施設として知られている。もともと河南町は生産者の結束もかたく、地域全体で農作物の価値を高めていくことに積極的だ。「なにわの伝統野菜」への取り組みもそのひとつ。そうした背景があって、田辺大根の実が広められようとしているのだった。けっして偶然の産物ではないと思われる。

しかも種の入った実だから、収穫を早めたり延ばしたりの調節はできない。旬は1年に1度、出荷は5月いっぱいが限度。今のところ収穫の量にも限りがある。つまり、希少だからこそプロ向けとしての価値も出る。そういう新しい食材として田辺大根の実がどういうふうに受け入れられていくか、注目したい。

[2010年4月26日取材]

成育した田辺大根を穫らずにおいておくと、ダイコンの茎が延び放題。
種取り用の一画は花が咲き、菜の花畑のようだ。白い花が田辺大根、黄色の花は天王寺蕪。
一本の茎にいくつもの実がなる。田辺大根の実を収穫する谷川さん。

田辺大根(たなべだいこん)の実

取材協力
東果大阪株式会社 / http://www.toka-osaka.co.jp/
谷川さんおすすめ 田辺大根の実を使った料理が味わえる店
「野菜物語せろり」
大阪市中央区北久宝寺町1-5-8 1F TEL.06-4705-0121
「ベジキッチンやまつじ」
大阪市中央区道修町1-2-11 アルテビル道修町1F TEL.06-6201-4649・06-6201-5550
参照:「道の駅かなん」公式HP
http://www.osaka-michinoeki-kanan.jp

[ 掲載日:2010年5月7日 ]