大阪食文化の未来を拓く。
新しいなにわの伝統野菜。
「大阪黒菜」

生産者:ひらかた独歩ふぁーむ 大島 哲平さん
大阪府枚方市

なにわの伝統野菜に、新たな味覚が仲間入り

大阪しろ菜は昔から知られているが、2024年2月に“大阪黒菜”が新しくなにわの伝統野菜に登録されたのはご存じだろうか。大阪黒菜は漬け菜の一種で、野沢菜や高菜の仲間になる。シャキシャキとした食感が魅力で、少しほろ苦い独特の旨味が特徴だ。寒さの中で、じっくり旨味を蓄える、今が旬の農作物。明治初頭には大阪市内で栽培がはじまったとされているが、現在は農地も少なく、都市化によって気温も上昇傾向にある都心部は本来の育成に適した環境とはいいにくい。一方で、ひらかた独歩ふぁーむがある枚方市穂谷は、山間地にある里山だ。枚方市街地と比べて気温が約2〜5度も低い冷え込みが厳しい地域。「これなら美味しいものができると思いました」と、大島さんは振り返る。

伝統野菜ならではの“弱点”も面白さのひとつ

栽培環境は適しているが苦労しているのは流通面だという。「葉っぱの黄化が早いような感覚があります」。葉が変色すれば、消費者には選んでもらえない。また、春先になると、あっという間に花が咲く。開花してしまうと花茎を伸ばすためにエネルギーが使われ、栄養分や水分、糖分、旨味成分などが消耗されてしまうのだ。伝統野菜である大阪黒菜はいわば原種のようなもの。品種改良などされていないため、どうしても一般流通による販売に弱い面は否めない。
「それは面白さでもありますけどね」の一言にやりがいが滲む。

植物本位の栽培で、品質と社会貢献を両立

大島さんのこだわりは、科学的・合理的に農作物と向き合う栽培技術にある。植物自身の力を最大に引き出す方法とは?よりおいしい野菜を多く採るための最善策とは?すべてを野菜本位で考える。たどり着いたひとつの答えが、有機栽培だった。
「野菜の能力を引き出すことを考えると、土作りが不可欠なんです。植物は、植えられている場所にあるものしか吸収できません。いわば植物にとっての消化器官は、土壌なんです。人間の腸内と同じように、微生物環境が整っていないと植物も健全に育つことができません。良い土にしたら終わりではなく、餌になる有機物を常に十分供給し、ベストな状態をキープし続けることが重要です」。
有機物によって微生物が活性化すると、土壌の栄養分を吸収しやすい状態に組み替えてくれるという。植物は負担が減る分、エネルギーを食味や旨み成分に回すことができるのだ。
その根源を支えるのが、「葦の繊維残渣」と「穂谷の竹チップ」を配合した独自の堆肥。「知人が淀川の葦原を保全するために葦を刈り取り、繊維をつくっています。その工程で出る残渣を利用したいと考えました」と大島さん。また、穂谷では荒れた竹林が課題になっていた。これも、堆肥として土に返すことができれば、さらに循環の歯車が回るというわけだ。
この堆肥を使って育てる大阪黒菜を「ひらかたの大阪黒菜」として独自にブランド化する動きも進む。最初から高品質なものを作ることで、大阪黒菜は価値の高い野菜であることを浸透させたいという心構えがある。

大阪黒菜で大阪に新たな食文化の創造をめざす

「大阪黒菜でやりたいことがあります」。大島さんに展望を伺った。それが、大阪黒菜の漬物をトッピングした「大阪ラーメン」の開発だ。「今、明確に『大阪ラーメン』と定義できるものがないように思います。それを大阪黒菜によって統一したスタイルにしたいのです。いつか大阪黒菜の産地が府内の別の地域にも広がって、地域ごとの大阪黒菜を使った大阪ラーメンが誕生すると面白いでしょうね」。
自らが旗振り役になり、大阪黒菜の人気を盛り上げ、ひいては新しい食文化の創造をめざす。大阪黒菜は、なにわの伝統野菜に加わったばかり。これから広がる無限の可能性に目が離せない。

[取材日:2024年11月28日]

独自堆肥で「ひらかたの大阪黒菜」をブランド化。
竹チップ由来の堆肥(左)と葦の繊維残渣由来の堆肥(右)を活用してブランド化を推進。「今後、大阪黒菜の生産地が広まった時、ひらかた独歩ふぁーむのものが一番だ、と言ってもらえるようなものを作りたいですね」と大島さん。
数値がおいしさを実証
独自堆肥で育てた大阪黒菜を分析し、小松菜の参考データと比べたところ数値に明らかな違いが出た。ブリックス糖度、ビタミンCが高く、抗酸化力は約2倍、えぐみの原因になる硝酸イオンは約1割という結果に。データからも、優れた成分と食味がわかる。
青菜と同じ感覚で手軽に調理
クセがないので味噌汁やなべ物、洋食、中華など、どんな食べ方にも合わせられるのが魅力。爽やかな香りと味わい深い風味は、そのままサラダにもおススメ。大きな葉は、塩づけにして巻き寿司やおにぎりにしてもおいしく、パリパリと心地よい食感を楽しめる。
食べ方はクックパッドで発信
クックパッドにもレシピを掲載して食べ方を提案。初めての野菜でも調理に迷わない。大阪黒菜以外にも、季節それぞれの野菜を使った多彩なオリジナルメニューが並ぶ。
農業体験イベントにも積極的
ショッピングモールなどでの農業体験イベントも開催。大阪黒菜の魅力や最新情報を伝えるほか、料理の試食体験も実施。認知拡大に取り組み、食卓への浸透をめざす。
数々の受賞歴を誇るベテラン生産者
大阪黒菜のほかにも、さまざまな野菜を手掛ける「ひらかた独歩ふぁーむ」。以前から、作物を活用した地域振興のアイデアや、高い有機栽培技術が評価されている。

大阪食文化の未来を拓く。新しいなにわの伝統野菜。「大阪黒菜」

取材協力
ひらかた独歩ふぁーむ
大阪府枚方市穂谷3-4-8
web:https://www.doppo-farm.com/
事業内容:大阪黒菜をはじめ季節の野菜の栽培および販売。

[ 掲載日:2025年1月20日 ]