地域おこしから生まれた
奈良の新しい特産品。
「レモングラス」

生産者:平原(へいばら)区自治会むらづくり委員会 北谷 寿朗さん
奈良県吉野郡

地域復興のために、レモングラスを特産品に。

奈良県の食材と聞けば、伝統野菜や大和茶、葛などを連想しがちだが、近年話題を集めているのがレモングラス。レモンに似た爽やかな香りで、口に含めばほのかな甘みが広がるハーブの一種だ。もともと熱帯地域で育つレモングラスだが、標高400mの冷涼な山間部で生産されているという。どのような経緯ではじまったのだろうか。レモングラス栽培と加工・販売を行う「平原区自治会むらづくり委員会」の代表である北谷さんを訪ねた。
「この下市町平原地区は、以前から住民の減少が続いていました。このままでは衰退する一方です。そこで地域を活性化するための事業として特産品をつくろうと思ったのです」と、当時を振り返る。
もともとは、地域おこしの一環だったのだ。
なぜレモングラスなのだろう。
「何をしようか考える中で、村の歴史を調べてみると江戸時代から薬草栽培で栄えたことがわかりました」。
北谷さんは大きなヒントを得て一旦は薬草を軸に動き出してみたものの、法律や資格の関係で簡単には取り扱えないという壁にぶつかってしまう。
「そこで、薬草を広い意味で現代風に捉えれば、ハーブにも通じるものがあるのではないかと考えたのです」。
なるほど。リラックス効果などハーブの多様な効能は薬草を思わせる。
それからは、さまざまなハーブ類を地域ぐるみで栽培しながら検討を重ね、選ばれたのがレモングラスだった。
こうして2016年から、本格的な栽培とハーブティーをはじめとした製品開発が開始された。

栽培に不向きな環境が品質向上に貢献。

気になる問題が1つ残っている。春以降も肌寒い日がある平原地域だ。熱帯育ちのレモングラスに影響はないのだろうか。
「やはり冬になると枯れてしまいます。視察に行った兵庫県三木市にあるハーブ園で話を聞いたところ、毎年苗を植え替えるしかないということでした」。
冬を迎える度に手間もコストもかかる。環境も育成に向いていないはずだ。
しかし、蓋を開けてみると評価は想像を超えるものだった。レモングラスに詳しいお客様からも、「おいしい」の声が多く上がったのだ。
その理由は何だったのか?調べてみると、ネックに思われていた気候のお陰だとわかった。気温が低いため、新しく植えた苗はゆっくりと成長する。その分、多くの糖分を蓄えられるのだ。
不向きだと思われてた土地で、逆にいいものができるのだから農作物は奥が深い。
「狙ったのではなく、結果的においしくなったんです」。
北谷さんは偶然だったと笑うが、まさに運も実力の内だ。

口コミとネット通販で販路拡大。

栽培自体は初年度から順調に進んだが、問題は流通先だった。「植えたはいいけど、どこで売ろう?」という状態からのスタート。販売先の目途が立たないまま、ハーブティーの製造へ踏み切った。
ところが、優れた製品は消費者が見逃さない。奈良県の直売所「まほろばキッチン」での販売を皮切りに評判が広がり、道の駅など販路を徐々に拡大。最近では、カフェなどからも直接取り引きを希望する声がかかる。また、近鉄百貨店奈良店や東京にある奈良県のアンテナショップ「奈良まほろば館」など大規模な施設からも注文が入る。ほとんどが口コミによる効果だ。
では一番販売量の多い店舗は?訪ねると予想もしない返事が返ってきた。
「なんとAmazonなんですよ」。
ちなみに二番目が楽天市場だ。農作物もネット通販の時代になっているというから驚かされる。
今後は、SNSを活用したブランド力の向上にも意欲を燃やす。
「インスタのフォロワーを増やして、商品の告知も積極的にしたいですね」。
常に新しい挑戦を続ける北谷さん。平原地区の未来と、レモングラスを使った新商品の登場に期待が高まるばかりだ。

[取材日:2024年3月29日]

徹底した有機栽培。
農薬と化学肥料は使わず、有機栽培を徹底する。5月下旬から植え付け、8月に1度収穫。再び伸びた葉を11月に収穫する。
村ぐるみで地域活性に取り組む。
現在、村の住人は45人だが30人が作業に関わる。文字通り村ぐるみだ。農家の人もいるため、トラクターや草刈り機などが揃うのも強み。また、コミュニケーションの場でもあり、みんなが集まる機会をつくることも重要な役割だ。
多彩な製品をラインナップ。
看板商品のハーブティーをはじめ、飴や虫よけ、アロマオイル、石鹸など多種多彩なアイテムを展開。「同じ商品ばかりだと飽きられていくので色々考えています」。北谷さんの言葉通り、現在も積極的に新商品を開発中だ。
少しでもできたての香りを届ける。
ティーバッグにレモングラスを詰める作業や、製品の包装は2ヶ月に1回。1年分をつくり置くこともできるが、レモングラスはカットしてから時間が経つほど香りがどんどん薄くなる。少しでも香り高い製品を届けるため、こまめな製品づくりにこだわる。
よりおいしく飲めるよう賞味期限を設定。
一般的なハーブティーの賞味期限は2年ほどだが、1年間に設定してより新しい商品を提供できるよう配慮。
日本の宝物に認定。
地方に眠る素晴らしい製品や人を見つける日本の宝物JAPANグランプリ2023-2024において、レモングラスティーがドリンク部門で準グランプリに輝いた。

地域おこしから生まれた奈良の新しい特産品。「レモングラス」

取材協力
平原区自治会むらづくり委員会
奈良県吉野郡下市町平原91-3
tel:090-2067-3235 fax:0747-53-0335
mail:heibara@shimoichi.com
web:https://shimoichi.com/heibara
事業内容:レモングラスの栽培、加工、販売。

[ 掲載日:2024年5月20日 ]