大阪の春を食べる。
丸ごとおいしいブランド野菜。
「八尾若ごぼう」

生産者:松岡農園 松岡 孝明さん
大阪府八尾市

大阪の農産物では2例目の地域団体商標。

季節を告げる食材は数々あるが、大阪は「八尾若ごぼう」で春が始まる。
地域の特産物に地域名を組み合わせて商標登録する地域団体商標で、大阪の農産物では「泉州水なす」に続く2例目。一般的に「葉ごぼう」と呼ばれる野菜だが、その高い香りと生産量で八尾は全国トップクラスを誇る。
“若ごぼう”といっても、普通のごぼうを早めに収穫したものではなく、品種そのものがまったく異なる。一番の違いは丸ごと食べられること。根の部分はもちろん、シャキシャキとした食感とほろ苦さがおいしい軸(茎)、そして葉まで余すことなく味わえる。アクもほとんどなく、煮びたしやかき揚げ、パスタなど幅広い料理に活躍してくれる嬉しい食材だ。
一方で市場に出回るのは2月から4月中旬までと短く、今を逃せば一年お預けになる貴重な春の滋味だ。

八尾の自然環境だからできる上質な美味。

古くから八尾周辺で盛んに栽培されてきた八尾若ごぼうだが、その品質と生産量を支えているのが八尾独自の自然環境。この地域は、もともと流れていた大和川の付け替えによってできたため、川底ならではの砂地が特徴。根が伸びやかに育ち、水はけも良いため相性が抜群なのだ。
そして霜が降りる気候も重要なポイント。なぜなら初冬の頃、霜によって葉を一度枯れさせるためだ。どうして、せっかく育ったものを枯れされるのか?
実は、その後に新しく出て来る若く柔らかい新芽こそが本当の「八尾若ごぼう」なのだ。名前に「若」の文字がつく所以である。かと言って、極寒の地では育たず、当然霜が降りない温暖なエリアでは栽培できない。まさに八尾ならではの名物なのだ。

採種から収穫まで、一年がかりの畑仕事。

八尾若ごぼうの畑仕事は、旬の春だけだと思われがちだが年間通じて忙しい。
「ほとんど1年中畑にいるからね。まず、5月頃から8月までは若ごぼうの花からの採種。9月に種まきを始めて、12月には枯れた葉を刈り取ります。1月半ばから4月上旬までは収穫や出荷準備。畑にいない期間はひと月くらいかな」。
取材日は収穫のピーク。松岡さんは忙しく手を動かしながら教えてくれた。
この話からもわかるように、八尾若ごぼうは自家採種が主流。代々続く、その農家だけの伝統の味が実るのも八尾若ごぼうの魅力だ。

気候に合わせた対応で出荷を管理。

若ごぼうづくりにおいて環境に恵まれる八尾市だが、出荷調整には苦労すると松岡さんは言う。寒過ぎれば大きくならず、気温が高いと一度に育ってしまい廃棄することにもなりかねないからだ。今季のような暖冬になれば、ハウスの温度調整などによる育成の管理が欠かせない。また、日照時間が長くなると数時間で驚くほど伸びることもあるから気が抜けないとか。天気を読みながら作業を行う難しさは、季節野菜ならではだ。
もうひとつ、重視するのが土壌の状態。
「肥料の成分によって吸収する量が違うので、徐々に土中の栄養が偏ってきます。そのため年に2回行う土壌検査の結果や経験を参考にしながら、不足しがちな成分を加えてバランスをとります」。
気候への対応や丁寧な施肥など、細やかな配慮が随所に光る。

八尾の農業を盛り上げる、旗振り役としても活躍。

本業のほかに、八尾堆肥研究会や籾殻堆肥同好会を立ち上げるなど、近隣の農家を牽引する活動にも貢献してきた。
「農業は一人でやるより、みんなでやるほうが絶対に良い。例えば5人いれば5倍の情報を一度に知ることができます。さらにグループなら市や農協も応援してくれるし、補助も出してくれる。人を動かすには、まず自分が動かなければいけません」。
先頭に立って地域の農業を盛り上げてきた松岡さん。
今後の目標は新規就農者をサポートするとともに、後継者としてスタッフを育てること。「自分の知識をすべて吸収してもらったうえで、やりたいことをプラスしていけばいいと思う」。
現在も松岡農園では、情熱を持った若手が働きながらノウハウを学ぶ。
大阪伝統の春の味が、これからも受け継がれ続けていくかと思うと心強い限りだ。

[取材日:2024年2月9日]

露地とハウスで収穫時期を調整。
収穫にも技術が求められる。誰でもできるものではなく、難しいコツがある。経験がないと茎の部分をかなり汚してしまうという。軸を持ったら跡が付くのだ。収穫量は二ヶ月半で約3万束に上るが、汚さず千切れないよう引き抜くためにはすべて手作業となる。
きれいな見た目も品質のひとつ。
土を落とす掃除の際は、茎を触ると大きな汚れが残る。根元だけを持ちながら的確に処理するのは至難の技だが、欠かせない技術だ。圧倒的にきれいな見た目も、松岡農園の魅力だ。
伝統の矢形に結束して出荷。
出荷時は矢形に結束するのが、江戸時代から続く伝統だ。
熟練の技が光る結束作業。
太さや長さがさまざまな若ごぼうを効率よく見組み合わせ、美しい矢形をつくるには独自の技術が必要だ。熟練した農家にしかできず、いわば高品質の証ともいえる。
出荷袋には生産者の名前を表記。
松岡さんは、出荷袋に名前を入れる。長年に渡って技術を磨き、大切に育てた作物だからこそ、お客様にも区別して欲しいからだ。パッケージからも、自信と愛情が滲む。松岡さんの名前を見て指名買いするファンもいるようだ。
とにかく丁寧な扱いにこだわる。
汚れの付着や傷みを予防するために、ごぼうの下に紙を敷いて保護する。小さなことだが、このひと手間をかける農家はごくわずかだという。松岡農園はとにかく作物の扱いが丁寧だ。こうしたこだわりも、おいしさに一役買っているのかもしれない。
賞が裏付ける確かな品質。
3月9日に行われた若ごぼうの品評会で、大阪府知事賞と八尾市民賞をダブル受賞。
(右から3番目が奥様の松岡尚子さん)

大阪の春を食べる。丸ごとおいしいブランド野菜。「八尾若ごぼう」

取材協力
松岡農園
大阪府八尾市恩地北町2-152
tel:090-5641-6740
事業内容:八尾若ごぼう・八尾枝豆などの栽培および販売。

[ 掲載日:2024年3月21日 ]