冬の寒さとこだわりの栽培が
育む極上の甘み。
「多賀にんじん」

生産者:多賀にんじんクラブ 部会長 小財 源治さん
滋賀県犬上郡

冬季限定、地域限定のにんじんを求めて。

にんじんと聞くと、いつでもどこでも手に入る印象ではないだろうか?そんな思い込みを覆すのが「多賀にんじん」だ。収穫は11月の半ばから3月上旬まで。ほとんど滋賀県近隣でしか流通していないため、手に入れるには地域のスーパーや直売所に足を運ぶしかない。冬期限定であり、地域限定の味覚なのだ。
一体、どのようなにんじんなのだろうか?栽培農家によって設立された生産者部会「多賀にんじんクラブ」の部会長を務める小財さんを訪ねた。

給食用に栽培したにんじんが名産品に。

話を聞いて驚いたのが、もともとは学校給食用に栽培されたということだ。
「児童に安心安全な食材を届けるためでしょうね。また、僕らの小さい頃のにんじんは、独特の臭みがありました。多賀にんじんは癖がないんですよ。小さい子でも、そのまま生で食べます」と、小財さん。
なるほど。にんじん嫌いの子を、少しでも減らそうという取り組みのひとつでもあったのだ。
多賀にんじんを食べたら、他の産地の物は食べられないという声も珍しくない。風味が全然違うのだ。おいしさの特徴は、とにかくその甘さにある。糖度は最大で10程度まで上がるとか。一般的なにんじんの約2倍だ。大げさに言うと、柿を食べているみたいな感じだという。
小財さんによると、秘密は有機肥料と丁寧な栽培にあるそうだ。そのため、多賀にんじんクラブに所属する農家は、肥料も栽培方法も統一している。それぞれ生産者が違っても、品質にばらつきが出ないのはこのためだ。
もうひとつ、甘さを引き出すカギが気候。多賀町は寒暖差が大きく、降雪量も近畿では群を抜く。寒くなる程に甘くなる冬野菜だ。雪下で育つとなると、おいしいに決まっている。
「1~2月ぐらいが一番甘いと思います」。小財さんも太鼓判を押す。

県が定める厳しい安心安全の課題をクリア。

多賀にんじんクラブでは、滋賀県が定める良質な生産物を表すブランド「環境こだわり農作物」の認定を毎年受けている。これは安心・安全な生産物を証明するもので、農薬や化学肥料は通常の50%以下。環境保全のためにさまざまな工夫を重ね、特別な栽培を行うことが条件だ。使用量のほかにも、含有成分や使用時期に至るまで細かく規定されている。
多賀にんじんを育てるうえで最も気を遣うのが、さまざまな病害虫の被害だ。しかし、対処するための薬にもルールがあり、4種類しか使えない。
小財さんは、特に大敵となる害虫と雑草の対処を徹底する。殺虫剤も使用可能な成分と量が厳しく限られるため、畑を見回って手で害虫除去するというから驚く。また除草剤も、雨や風によってすべて流されるタイミングを考慮して、使用時期が限定されている。もちろん、にんじんが大きく育ってからは、成分が残留してしまう可能性があるため使用厳禁だ。手作業による丁寧な草取りは欠かせない。人の手による丹精を込めた栽培が、美味と安心を支えているのだ。
毎年、自然環境など条件が変わるのが農業の難しいところだが、多賀にんじんは畑まで変わる。稲や麦を収穫した後に転作で栽培するため、圃場もローテーションして移っていくのだ。同じ多賀町といえども、場所によって気候も違えば、土質もそれぞれ。
「毎年、一年生ですよ」。
ベテランの小財さんでさえ、そう言って笑う。

多賀にんじんを地域社会のためにも。

地域の特産品として愛されている多賀にんじんだが、近年では社会貢献でも注目を集めている。そのひとつが「農福連携」だ。滋賀県と福祉施設、多賀にんじんクラブの3者で協定を結び、収穫体験や乾燥人参などの加工品生産をサポートしている。
学校給食用食材から名産品になり、次は地域の発展や福祉分野でも発展の予感を見せる多賀にんじん。
これから先も、おいしいにんじんと、旬の話題をたっぷり届けてくれそうだ。

[取材日:2023年12月14日]

滋賀県が定める「環境こだわり農産物」を取得
滋賀県が認める良質な農産物のブランド、「環境こだわり農産物」の認定も毎年取得。安心・安全な栽培を証明するもので、肥料や薬剤の成分や使用量、使用時期などが細かく規定されている。
パッケージにも安心・安全の証
消費者が一目で「環境こだわり農産物」であることを確認できるよう、パッケージにもマークを表示。小財さんは「これで安全な野菜だと判断できます。なおかつ甘くておいしく、子どもさんもよく食べられるから広がっていったんじゃないかな」と、人気の秘密を教えてくれた。
降り積もる雪の中で、さらに甘さを増していく
雪の中での収穫は、特に苦労を極める。スコップで雪掻きし、倒れた葉を指で掘り起こす。収穫が通常の半分のペースになることもあるそうで、「大変でも値段は一緒」と小財さんは笑う。だが、その寒さの中で、甘みはどんどん増していくのだ。
農業体験イベントも実施
一般の方が収穫体験できるイベント「多賀町農産村の集い」も開催。地元の交流や活性化にも場を提供する。
小学生の食育にも積極的に参加
毎年、多賀小学校や大滝小学校の児童が、授業の一環としてにんじんの収穫体験に訪れる。地元の特産品に触れることで、農業や食の大切さを学ぶ貴重な機会に。

冬の寒さとこだわりの栽培が育む極上の甘み。「多賀にんじん」

取材協力
多賀にんじんクラブ
滋賀県犬上郡多賀町多賀1350
事務局
JA東びわこ 東部営農経済センター
滋賀県犬上郡豊郷町四十九院1126
tel:0749-35-2552 fax:0749-35-0233
事業内容:多賀にんじんの栽培および販売。

[ 掲載日:2024年1月22日 ]