木積(こつみ)のタケノコ

生産者:宮下 幸郎さん
大阪府貝塚市木積

春の味覚を代表するタケノコは、穫ってから時間が経つほどえぐみが強くなるので、おいしく味わうなら掘りたてを食するがのぞましい。近頃はネットを通じて関西はもとより全国の名産地が紹介されるなど情報はあふれているけれども、近場で穫れる質の良いものを見つけるのが最善なようだ。

定評のある産地には、次のような共通点がみられる。まず土壌。とくに粘土質のように柔らかい土がよいとされる。加えて、タケノコ作りに適した土質を維持するため、藁を敷いたり土を入れ替えたり工夫して日頃から手が入れられていること。次に水量に恵まれながら水はけがよいこと。そのため、竹山は自ずと勾配のある地形になる。そして、空気が清浄で温暖な気候であること。

今回訪ねたのは、こうした条件を全て満たしながら農家の努力もあって良質のタケノコが穫れると評価の高い大阪府貝塚市の木積(こつみ)地区。生産者のひとり、宮下幸郎さんに話をうかがった。

宮下さんの家は「記録で遡れるのは元禄時代」そのさらに前から続く地元でも有数の農家。「父の代から、それまでミカン山だった肥えた地を生かし、徐々にタケノコ用に替えていった」という20アールの竹山を引き継ぎ、今やタケノコ作りが専業になっている。

貝塚市が位置する泉州は、和泉葛城山脈から大阪湾に臨む地で、勾配があり粘土質の肥沃な土壌。和泉(いずみ)の国と呼ばれたくらいに水脈も豊か。古来より畑作が盛んに行なわれ、現在は水ナス、タマネギ、ミカンなど多くの特産品で知られる。タケノコ作りはそうした地の利に適っていたのだ。今や「木積のタケノコ」といえば上質との評価も浸透しつつあり、大阪の料亭などでこの季節には欠かせない食材として重宝されている。

宮下さんの竹山は、遠くから見れば濃い緑の葉が繁る竹林なのに、親竹は意外なほど広い間隔で植わっている。地面は踏み入れた足が沈むくらいに柔らかい。「地味入れ(じみいれ)と言って、肥えた土を積んで客土を繰り返しているんです」と宮下さん。よく手入れされた竹山はまさに野菜を育てる畑と同じだと気づかされる。

「タケノコは地中の親竹の根から分岐した地下茎が育ったもの。先端が外に顔を出し大気に触れた途端、急激に成育するので、そうなる前に掘り穫らねばなりません」。と話しながら、宮下さんは地面に小さく盛り上がった亀裂を見逃さず、棒を差して歩く。

収穫期には、日が昇って顔出しを早める前、午前2時頃から明け方までかけてタケノコの朝掘りが行なわれる。暗いなかでの作業なので、棒が目印になるのだった。木積では4月に入れば毎朝の収穫が続き、20日頃に最盛期を迎える。そして5月の中旬まで穫れるという。

宮下さんに試しに掘ってもらうと、胴が長く見事な紡錘形をしたタケノコが現れた。皮の茶色も薄く、切り口の白さが際立つ。「この白いのが特徴で、穫って12時間は灰汁を取る必要もなく、湯がくだけで食べてもらえる」と宮下さん。

早速お宅に持ち帰り、生のまま炒めたのをいただく。柔らかく、噛むほどに特有の香りがほのかに広がっていく。「木積のタケノコ」で、ひと足早く、春の香りと味を堪能させていただいたのだった。

[2010年4月1日取材]

山や窪地と多様な勾配のついた段々畑のような竹山。広い間隔をとって親竹が並び、ふかふかの地面の下でタケノコが育つ。
地中で大きくなったタケノコによって地面にできた小さな起伏のある亀裂。そのすぐ下に先端がある。
熟練の技でタケノコを掘る宮下さん。最後は、細長い鋤を梃子のように使い、傷をつけずに掘り穫る。
穫りたてを生のまま、オリーブオイルでさっと炒めたのをいただく。動物性オイルでもタケノコの味が引き立つとのこと。

木積(こつみ)のタケノコ

取材協力
東果大阪株式会社 / http://www.toka-osaka.co.jp/
宮下さんおすすめの「木積のタケノコ」の保存
・厚めに輪切りしたタケノコを鍋に水(水道の水で可)と入れて火にかける。沸騰してから約30分煮る。冷めたら煮汁とともに冷蔵庫で保存できるとのことです。

[ 掲載日:2010年4月6日 ]