朝採れの実を、その日のうちに。
真の完熟だから叶う絶品の甘さ。
「いちじく」

生産者:藤井農園 藤井 貫司さん
大阪府羽曳野市

大阪で唯一のハウスと露地の二刀流栽培。

古くから不老長寿の果実とも呼ばれる「いちじく」。夏のフルーツの代表格であり、豊富な栄養と上品な味覚で群を抜く人気である。今回は上質ないちじくを求めて、全国でもトップクラスの生産量を誇る羽曳野市で60年以上続く老舗「藤井農園」を訪ねた。
工夫を凝らした栽培方法を多数取り入れ、大阪で唯一ハウス加温栽培をしている非常に珍しい農家だ。
ハウス栽培は1999年から。初代農園主の強い想いを三代目の藤井さんが引き継ぐ。
「気温や水など、環境を自動で管理できるハウス栽培は、高品質ないちじくが安定的に育ちます。出荷時期も5~7月と早く、露地栽培が旬を迎える8~10月と合わせると、5カ月以上に渡っておいしいいちじくを味わえます。長雨が続くと味を落とす繊細な面もありますが、ハウスなら安心です」。
2019年からは、先進的な栽培技術「ポット養液栽培」を導入。ポットごとに養分を集中させることで、より大きく甘い実を育てられるという。また、ポットを交換するのみで植え替えられるなど、リスクの低減と優れた栽培環境の両立を目指せる。とは言え、自然が相手の仕事。実際には毎年が試行錯誤の連続だとか。

ひとつ上の美味を育む、豊かな光と土。

これから収穫時期を迎える露地栽培の畑を案内してもらうと、まず目につくのが圃場に敷かれた白いシートだ。
「これは一部の圃場に設置している乱反射シートです。植物は光合成でつくった養分を使って実を育て、甘さを増していきます。シートで光を乱反射させ、上下左右から太陽を当てて光合成の活発化を狙いました」。
そして、木の育成を支える地盤となるのが、文字通り土造り。いちじくの根は畝の表面付近に広がるため、毎年全体を覆うようにたっぷりの堆肥を与えるという。土が加えられることで根はさらに伸びやすくなり、微生物も増加するため豊かな土壌になるのだ。もちろん、こうした取り組みは単純な収穫量アップが目的ではない。逆に枝数は控え目にし、一枝一枝にたっぷり栄養を行き渡らせる。すべてはおいしさのためだ。

朝採れの完熟いちじくを求めて深夜から畑へ。

熟すほどにおいしくなるのは果物に共通だが、いちじくほど採るタイミングで著しく味が変わるフルーツも珍しい。木で完熟させた果実は、その柔らかな肉質と糖度で、早摘みのものを圧倒する。一方で、いちじくは驚くほどデリケート。ギリギリまで熟させると、傷んでしまうリスクが大きい。最悪の場合、翌日にはもう販売できなくなるほどだ。
一般的にスーパーなどでは、仕入れから陳列まで1~2日必要とするため、どうしても完熟前に収穫したものしか流通できない。だが、このわずかな時間の差が、風味を大きく落としてしまう。
藤井農園は、できるだけ完熟した果実を食べてもうことを最優先にする。だから出荷先は、その日に店頭に並べられる店のみ。朝一番の出荷に合わせて、深夜の1時から畑に立つのだから、こだわりの大きさが見て取れる。

農園のロゴマークを刷新し、農業への想いと誇りを視覚化。

作物だけではなく、ロゴマークの刷新にも手を尽くした。単純な目印としてではなく、農園の理念を視覚化して明確にするためだ。同時に、自らの仕事へ対して改めて誇りを実感できると考えた。
「ロゴには“農で笑顔と彩りを届ける”という想いを込めました。農産物で満足していただくことは当然ですが、農の価値は作物以外にもあると思います。栽培の喜びや、自然に触れる感動といった面白さも届けたい。だから収穫体験などのイベントも行っています」。
農業をいろんな側面から知ってもらい、それらを含めて藤井農園を好きになって欲しいという願いが滲む。
新しいことに積極的な藤井さんが次に狙うのは、今までにない、いちじくの加工品開発だ。
「畑に来る人みんなを笑顔にしたい」。
その気持ちを原動力に、チャレンジは続く。

[取材日:2023年8月2日]

多彩なアイデアで栽培技術を向上。
太陽光を反射させ四方八方から光を与える「乱反射シート(左)」や、いちじくの木をポットごとに分けて育てる「ポット培養液栽培(右)」など多彩な技術を積極的に取り入れ、さらなる高品質をめざす。
クラウドファンディングで人気商品を開発。
収穫した作物でつくったポテトチップスやみりんをはじめ、今年の5月には、すり潰したいちじくを丸ごと使ったクラフトビール「いちじくビール」を発売。果肉も感じられ、ほんのりいちじくの風味が香る。
農の楽しみに触れられる恒例の収穫祭。
5月に行う収穫祭はジャガイモ掘りや野菜収穫のほか、採れたて食材でバーベキューも楽しむ。藤井さんが始めたイベントの一つだ。
最高級ブランド「羽曳野バイオレット」が誕生。
2021年にブランドいちじく「羽曳野バイオレット」を新開発。朝採れの果実をその日のうちにクール便で発送してくれる。抜群の鮮度とおいしさで、贈答品としても人気。
古市駅隣の広場でマルシェを月一回開催。
時間は16時~19時で地元の通勤客や主婦層が主なターゲット。大切なのは売り上げではなく、認知度を広げて後につながることを期待する。9月にはいちじくに特化したマルシェを開催予定。
朝一番の採れたてが並ぶ直売所。
多彩な作物や加工品が並ぶ農園の直売所。朝採ったばかりの完熟いちじくを求めて、三重や奈良から訪れる人も珍しくない。いちじくの購入は、羽曳野の道の駅「白鳥の郷」、産直市場「よってって」、インターネット通販でも可能。

朝採れの実を、その日のうちに。真の完熟だから叶う絶品の甘さ。「いちじく」

取材協力
藤井農園
大阪府羽曳野市誉田6-1-3
tel:090-3945-6568 fax:072-956-0137
事業内容:農作物の栽培および加工品の販売。

[ 掲載日:2023年9月20日 ]