国産のおいしい魚を届けるために。
陸上養殖という新たな漁場を大阪に。
「美咲サーモン」

大阪府初の大型陸上養殖による「美咲サーモン」
大阪府で上質なサーモンが獲れるという話をご存じだろうか。
いや、大阪湾のことではない。そもそも海ですらない。岬町の淡輪漁港にある建物の中で獲れるというのだ。
生産者は大阪府で初となるサーモンの陸上養殖に取り組む、株式会社陸水。
元々海面養殖に携わっていた代表の奈須さんは、海水温の上昇、魚病の増加、赤潮の頻発など海面養殖に最適な場所が縮小されつつある問題に直面。陸上養殖と海面養殖の連携によって、国産の優れた魚介類を広く届けたい一心で事業を立ち上げたという。
室内で行う陸上養殖は天災などの影響受けにくく、一定の品質と生産量が魅力。旬や漁獲量によって価格が高騰する心配もわずかだ。
稚魚においても、海面養殖は魚種が天然に頼っているため、不漁など不安定要素が大きい。
一方、陸水では管理した卵から孵化させた人工種苗を成魚まで育てる。安定した供給があるほか、海を経ていないためアニサキスなどの寄生虫が入る不安も払拭できる。
大阪だからできる。鮮度は高く、輸送費は低く。
大阪府での陸上養殖は、輸送費でも大きな恩恵を受ける。
養殖が盛んな地域は、九州や四国など遠方が多い。その点、岬町なら大阪市内への送料を大きく削減できる。もちろん省いたコストは、価格に反映される。生産者も消費者も得になる構図が、大量消費地・大阪で養殖することのメリットだ。
そしてもう一つ。この立地ならトラックでも、大阪の中心地まで2時間もあれば到着できる。この圧倒的な新鮮さこそ、陸水が手掛ける陸上養殖の真骨頂だ。
高い鮮度は味の良さのみならず、調理のニーズにも幅広く対応できる。つまり、刺身にしても寝かして使うことも料理人次第。柔軟に対応してくれる。
「これほど新鮮なのは、あまり食べたことない」という声が聞こえてくるのも当然だろう。
販売先は、大手スーパーや飲食チェーン、ホテル、婚礼場など数百件に広がっているのも頷ける。
陸上養殖だから叶う理想の水質。
養殖用の水にも工夫が光る。海水をそのまま使うのではなく、近隣に掘った井戸からくみ上げる透明度の高い海水を、さらに紫外線殺菌して水槽に満たすのだ。これならば菌やウイルスが魚に近づくことがなく、抗生物質を使うことなく育てることができる。
水の管理はこれだけに留まらない。最重要視するのが、魚の生死や成長などを左右する酸素濃度。センサーで24時間測定し、異常があればすぐに携帯電話へ連絡が来る。
警報が鳴る値はシビアに設定しているため、ちょっとした水質のブレでも反応する。
「誤報に近いような状態でも鳴ります。確実に安全な範囲でなければ意味がありませんので」
真夜中の呼び出しも日常茶飯事だ。
陸水の仕事は、お客様の「欲しい魚」を実現すること。
これだけ手を入れ、気を配って、味が悪いはずがない。
まず挙げられるのが、綺麗な海水で育てるため、養殖魚特有のニオイが全くないことだ。
また陸水では、食味のコントロールと海洋資源の保護を兼ねて配合飼料を採用する。生餌のように水分を含まないため、身が締まり、きめ細かく、濃厚という評価につながっている。
風味を決める栄養成分の配合についても、厳選を重ねた。
一般的にノルウェイ産などの輸入サーモンは、たっぷり脂が乗った印象だ。一方、陸水がめざすのは、さっぱりしたテイスト。脂の乗りで勝負するのではなく、逆路線を攻める。脂が苦手な人でも楽しめ、食べ飽きないのがうれしい。
脂の乗りを抑えるため、比較的サイズは小型になるが、これもお客様にとっては利点が生まれる。
例えば飲食店なら、1日で使い切れるため常に鮮度のいい魚を提供できる。
凄いこだわりだ。
「陸水のこだわりというよりは、お客様のこだわりを実現することが私たちの仕事ですから」と、サラリと言ってのける奈須さん。
今後は生産量や魚種の増加も視野に発展をめざす陸水。
陸上に広がる新たな漁場から、おいしい魚が日本中に届く未来が今から待ち遠しい。
[取材日:2023年2月13日]

美咲サーモンの生産量は約1800匹。4月の初頭から販売されるが、1ヶ月ほどで売り切ってしまう人気の高さだ。

水槽は、これまで主流であったコンクリートやFRPではなく、リサイクル可能なポプロピレン製。水槽への利用には、まだ珍しい素材だが環境負荷を考慮して導入。当然、海洋養殖のようなロープや発砲フロートも不要になるため、海洋プラスチック問題にも貢献。

養殖に使う水は、くみ上げた井戸水を紫外線殺菌処理。ウイルスや寄生虫の侵入を防ぎ、養殖魚特有の臭みも解消。



魚種は美咲サーモンのほか、陸水トラフグ、クエ、陸水ヒラメも手掛ける。大阪にはフグの食文化があり、全国の半分以上が消費されるといわれる。一方、生産の半分以上が長崎県だ。運賃と鮮度を考えると大阪でフグを養殖する価値は高い。

養殖場は、モデルルームとしても365日オープン。見学はもちろん、未経験で陸上養殖業をはじめる場合は、ノウハウの指導といったサポートにも応じる。
国産のおいしい魚を届けるために。陸上養殖という新たな漁場を大阪に。「美咲サーモン」
- 取材協力
- 株式会社 陸水
- (堺本社)大阪府堺市堺区新町1-25
- tel:072-487-8356 fax:072-496-6180
- (養殖場)大阪府岬町淡輪
- web:https://www.rikusui.com/
- 事業内容:陸上養殖および水産物の販売。
[ 掲載日:2023年3月20日 ]