合鴨とともにかなえる、
完全無農薬の米づくり。
「合鴨農法の有機米」

生産者:井関農園 井関 義次さん 井関 俊輔さん
兵庫県丹波篠山市

合鴨は有機米を育てる大切なパートナー。

1年を通して日本中においしい食材は数あれど、やはり一番盛り上がるのは実りの秋ではないだろうか。野菜に果物、海の幸、山の美味…。数えるときりがないが、今回は農業の原点、日本の食の基本に立ち返ってお米に着目。特に個性が際立つ「合鴨農法」を行う、井関農園を訪れた。
稲作に合鴨。珍しい取り合わせだが、どのようなメリットがあるのだろうか。
「第一に完全無農薬の有機米を栽培することができます」と井関義次さん。「合鴨が害虫を食べてくれるので殺虫剤がいりません。また泳ぐ際に土を攪拌するため水が濁り、光を遮るため雑草もほとんど生えない。同時に、稲へ悪影響を与える土中のガスを放出する手助けにもなります。元気な土壌づくりにも活躍してくれるのです」。もちろん、合鴨の糞がそのまま堆肥になることはいうまでもない。
しかし合鴨が泳ぐときに稲と干渉してダメージを受けないのだろうか?
「人の手のひらに喩えると、何度も刺激を受けると豆がきて強くなりますよね。稲も同様です。鴨と擦れることで、逆に倒れにくくなるのです」。合鴨たちはまさに、井関農園の大事な従業員なのだ。

生き物を使うからこそ感じる独特の難しさ

一般の米づくりにはない苦労といえば、生き物を使う難しさだろう。何よりキツネやイタチなど鴨を狙う害獣にはひときわ気を使うという。山に近い圃場は、まず使えない。さらに電気を通した柵やネットで周囲をぐるりと囲む作業が不可欠だ。
「この設置と取り外しが意外と大変です」。
また、田んぼには合鴨が泳げるように水をずっと張っておくことが前提。水がすぐ抜ける土地は向いていない。
土地的な条件も厳しい。
合鴨農法の難しさは、とにかく手がかかること。今、丹波篠山で井関農園のみが取り入れているのも、そうした事情があってのことだ。

ご家庭から一般企業にも広がる幅広いファン

販売先は一般家庭を中心に、ホテルや素材にこだわる飲食店まで幅広い。レストランによっては米と一緒に合鴨の肉を仕入れ、そのままリゾットにする店もあるとか。これも合鴨農法ならではだ。また、完全無農薬の安全性から、離乳食を製造する企業からも注文の声が上がる。
意外なことに化粧品会社も顧客だ。米の成分が肌に良いことは有名だが、原材料として無農薬で育てた米と糠を使うことで、商品の安心感の高めたいというわけだ。
井関農園のお米は毎年売り切れ必至の人気を誇るが、熱心に営業活動をしたわけではない。一般家庭のファンもホームページにある、お客様の「おいしい!」という声や口コミで広がった。そうした品質の良さに、多彩な企業も注目しはじめたのだろう。

お客様の食卓に届くまでが、井関農園の米づくり

井関農園は全量直売。小売店に卸すことはしない。だからこそ、お届けまで徹底してこだわる。1パックの量は、2号から5キロまでを揃える。小分けにする理由は鮮度にある。
例えば一般の家庭の場合、10㎏の袋に入れてしまうと食べ切るまでに2か月以上かかることもあるだろう。そうなると酸化してしまい味が落ちる。それでは、丹精込めてつくる意味がない。だからパッケージは全部真空パックだ。こうすることで未開封の証明にもなり、第三者によって中身を変えられたりする心配もない。
「生産から販売まで責任をもってお届けします」と、井関さんの笑顔に自信と誇りが滲む。
新米発売は9月20日。この記事が掲載される頃には、採れたばかりの「あいがもの夢」が出荷を今かと待っていることだろう。

[取材日:2022年8月1日]

愛らしい姿も合鴨農法の魅力のひとつ
5月末から6月の上旬頃になると、全部で約1400匹の合鴨たちが放たれる。心を和ませてくれる愛らしい姿も、この時期の風物詩だ。
手間暇を惜しまない乾燥もポイント
刈り終わった稲の乾燥も丁寧に。まず第1段階として送風をかけた後、ある程度時間をおいて、また乾燥を繰り返す。2~3段階に分けるため、状況次第で3日もかかる時がある。
品質管理にこだわり低温倉庫で保管
お米の保存に最適な環境である気温13°、湿度70%の低温倉庫で保管。精米時も温度が高くなり過ぎると食味が落ちるため低温を守る。少量ずつしか行えないが、手間と時間は惜しまない。効率よりも品質が最優先。低温へのこだわりは、おいしさを落とさないために欠かせない。
大阪府池田市の直売所「まめだぬき」でも購入可能
店内には丹波篠山の農産物や自慢のお米が並ぶ。(大阪府池田市井口堂2丁目7−13)
精米は胚芽米から玄米まで応えてくれる
商品は、お客様への直販のみ。ラインナップは、粒立ちがしっかりした「コシヒカリ」。モチモチ触感で冷めても硬くなりにくく、お弁当にもおすすめの「ミルキークイーン」。さっぱりした風味でおかずの味の邪魔をせず、お寿司にも最適な「夢心地」の3種類。何分付きにするのかリクエストも可能だ。
近年はオフシーズンにイチゴ栽培をスタート
スイーツショップに要望されたのがきっかけで、一昨年からは大阪池田の農園でイチゴも栽培。販売先は池田市内のお店に限る。その理由は超採れたてを届けたいから。収穫して2時間以内に届けるというから驚く。

合鴨とともにかなえる、完全無農薬の米づくり。「合鴨農法の有機米」

取材協力
井関農園
〒669-2206 兵庫県丹波篠山市西吹568
tel:072-762-0092 fax:072-760-2121
mail:iseki@aigamo.co.jp
http://www.aigamo.co.jp/
事業内容:米・野菜の栽培および販売。

[ 掲載日:2022年9月20日 ]